妙子2-1
「いらっしゃいませ。指名有難うございます」
「名前は何と言うんだ」
「妙子です」
「いい名前だな」
「そう? 此処は初めてですか?」
「ああ」
「そうすると写真を見て指名してくれたの?」
「いや。ブラッと入ってきたら丁度お前が立っていた。その姿が良かったから指名した」
「立っている姿が良かった?」
「丁度横から見たから、そのデカイ胸が目立ったんだ」
「大きい胸が好きなの?」
「デカイ胸を見ると俺のチンポもデカクなる」
「大きくなってないよ」
「変な所触るな。大きくなりそうだと言ったんだ」
「お客さんの名前は何と言うの?」
「研だ」
「いい名前ね。苗字は?」
「苗字が研だ」
「研ナオコの親戚?」
「馬鹿」
「御免なさい」
「名前は龍児だ」
「研龍児なんて映画スターみたい」
「名前が良すぎていけない」
「良過ぎていけないことなんかないわ。龍児さんて言えばいいの?」
「いや、ケンと呼んでくれ」
「ケンさん?」
「さんは要らない。ケンさんと言うと高倉健みたいで厭なんだ」
「仕事は何?」
「総会屋だ」
「ソーカイヤ? それってどんな仕事?」
「株主総会って知ってるか?」
「さあ? 聞いたことあるような気もするし、無いような気もする」
「それじゃ説明しようがない」
「難しい仕事?」
「世の中に易しい仕事というのは無いんだ」
「そう?」
「ホステスだって、知らん奴は座って酒飲んでタバコ吸って男と喋ってればいいだけだから楽な仕事だと言うが、そうじゃないだろ?」
「うん。全然楽じゃない」
「楽な仕事というのは無いんだ。売春婦だってそうだぞ。ただ寝そべって男にやらせてればいいだけだから楽だと思うだろ。ところがそうじゃない」
「上になって一生懸命動かないといけないの?」
「そんなことじゃない。ただ寝そべってやらせるだけでも大変だと言ってるんだ。相手は何処の誰とも知らない奴で、セックスしてる最中にいきなり首締めてくるかも知れんし、ビール瓶みたいにデカイのを持ってたりするかも知れん。そんなの入れたくないだろ?」
「ビール瓶みたいに大きいのなんてあるの?」
「知らないけど、外人なんかはそんなのもいるんじゃないか?」
「研のはどれくらい?」
「コーラ瓶くらいだ」
「大きい。本当?」
「いや、それはちょっと大袈裟だった。カティサークの瓶くらいだ」
「それじゃビール瓶と同じじゃないの」
「いや、それのミニチュア・ボトルだ」
「馬鹿」
「つまり売春婦だって楽な仕事ではないと言ってる訳だ。野球や相撲が好きでプロになった奴だってそうだぞ。プロになった途端に、飯より好きだったはずの野球や相撲が苦しいものに変わる。仕事というのはそういうもんなんだ」
「そうなの?」
「それはそうだ。好きなこと、楽しいことをしてんなら逆に金を払わないといけない。苦しくて辛いことをしてるから金を貰える。それが当たり前の道理というもんだ」
「なるほどー」
「そんなに感心する程のことでもない」
「厭らしい話してんのかと思ったら真面目な話してたから」
「全然厭らしい話なんかしてない。俺は根が厭らしいから、真面目な話してても時々出てくるだけだ」