妙子2-30
「お前いやにのんびりしてるけど、そろそろ店に行く支度しなくていいのか?」
「今日は休む」
「何で?」
「研と一緒にいたいから」
「子供みたいな奴だな。そういう時は体の調子がちょっと悪いからとか言うもんだ」
「お店にはそう言うよ」
「いや、俺にもそう答えるのが普通なんだ」
「どうして?」
「どうしてって、お前には気取りってもんがないな」
「気取らないといけない?」
「いや。気取らないから好きだと言ったんだ」
「有難う」
「お前、今でも久美と付き合ってるのか?」
「ううん。とっくに付き合わなくなっちゃったよ」
「そうか」
「何で? 又一緒に食事したいの?」
「そうじゃない」
「それじゃ何で?」
「実を言うと今日も又3人の男に突然襲われた」
「え? 大丈夫だったの?」
「大丈夫だったから此処にいるんだ」
「怪我しなかった?」
「怪我はしなかったが、服が破れた」
「何処?」
「あそこに掛けてある」
「あー。背中があんなに切れてる」
「いきなり後ろからドスで切りかかって来たんだ。尤もドスは突くものであって切るものじゃないから、相手は素人かも知れん」
「それで背中は怪我してないの?」
「ああ」
「キャッ、シャツも切れてる。ちょっと脱いで。背中見て上げるから」
「いや。大丈夫だ。せいぜいカスッた程度だろう」
「あ、少し切れてる」
「そうか?」
「大したことないけど、薬付けてあげる」
「ああ」
「一体なんでそんなに襲われなきゃいけないの?」
「それなんだけどな。襲った1人を締め上げて聞いて見たんだが、妙なことを言いやがった」
「妙なことって?」
「女を泣かせるような奴は男の屑だと言いやがった」
「女を泣かせる?」
「ああ。俺が誰か女を泣かせたらしい」
「名前は言わなかったの?」
「いや、そいつは知らないようだった。いろいろ聞いてはみたんだが、殆ど何も知らないんだ。ただ仲間に誘われて面白そうだからくっ付いて来ただけなんだな」
「ふーん。一体誰を泣かせたの? 沢山いて誰か分からないの?」
「馬鹿言うな。俺は女を泣かせることは嫌いなんだ」
「だって襲って来た男がそう言ったんでしょ?」
「ああ。俺はひょっとしたら久美のことじゃないかと思うんだ」
「久美ちゃん?」
「それくらいしか思い当たらないんだ」
「口説かれてフッた時に久美ちゃん泣いてたの?」
「いや。あの時は泣いてなかったが、後で泣いたのかも知れない」
「そうすると本当にフッたのね」
「まだ疑ってたのか」
「ううん。疑ってないけど、あれ程のいい女に口説かれれば多少何かしたかも知れないなって思ってた」
「つまり疑ってたんじゃないか」
「そうなるか」
「そういうことをしなかったから泣いたんだ。泣いただけじゃなくて多分、相当恨みに思った筈だ。何しろプライドの強い女だからな」
「それで久美ちゃんが男に頼んで研を襲わせているって言うの?」
「ああ。そういうことなんじゃないかと思う」
「そんなことするかしら」
「分からんが、それくらいしか思い当たることが無いんだ」
「もし久美ちゃんだったらどうするの?」
「さあなあ。どうしよう」
「許せないわね」
「うーむ。相手が男なら話は簡単なんだが、相手が女ではな」