妙子2-23
「そう言ってくれると俺でも嬉しいが、俺が初めて店に行った時に何で俺に惹かれたんだ?」
「何でだと思います?」
「分からないから聞いているんだ」
「付き合って下されば教えて上げます」
「咄嗟の答えとしては上出来だな」
「え?」
「俺は妙子とすぐに親しくなった訳じゃない。妙子も一緒だったがあんたと食事をしたこともある。初めて見た時に俺に惹かれたと言うんなら、何故今までそう言わなかった」
「まさか妙ちゃんのいる前で口説く訳にいかないじゃないですか。それにそういうことは女から言うもんじゃありませんよ」
「しかし今日はあんたから言い出したんじゃないか」
「いくら態度で示しても気付いてくれないからです。気付かないフリをしてたのかも知れませんけど」
「態度で示した? それは無いだろう」
「どうして?」
「同じ席に座ったこともなくて、どうやって態度で示せるんだ」
「すれ違う時に手を握ったこともあるし、研さんがトイレに立った時はいつも私も何か用があるフリして後を追っていろいろ話し掛けたじゃないですか」
「流石にナンバー1ともなるといつも店じゅう駆け回ることになるんだなと思っていたが、あれはわざとだったのか」
「そうですよ」
「それは知らなかったが、何故なんだ。いや、そんな事はもうどうでもいい。それよりちょっと電話を貸してくれないか」
「いいですよ」
「何考え事してんのよ、厭らしい」
「ん? いや、久美と仕事の話をしたんだが、上手く行かなかった。何故なんだろうと考えていたんだ」
「そんなこと決まってるわ」
「ほう。何故だ?」
「下心持って仕事の話なんかして上手く行く筈がないのよ。第1久美ちゃんと仕事の話なんかある筈がない」
「それがあったんだ」
「何処で会ったの?」
「彼女の家だ」
「ナニー?」
「と言ったって別に疚しいことは何もしていない」
「仕事の話だったら何で女の1人住まいに行くのよ」
「まあ、それは確かにおかしいな。俺も何処か深夜喫茶にでも行こうと言ったんだ」
「久美ちゃんの部屋で何したのよ」
「話をしただけだ」
「セックスしたんでしょ」
「おい。話をしただけだと言ってるのにセックスしたんだろなんて決め付けるな」
「知ってるんだから」
「知ってると言ったって、してないものはしてないんだ」
「そうじゃない。久美ちゃんが研に気があることを知ってるのよ」
「そんなことは無いだろうよ。俺みたいなパッとしないヤクザに興味を持つことは無いだろう。あっちはデカイ店のナンバー1なんだ」
「そんなこと関係無い。誰が誰に心を惹かれてるかぐらい私みたいな馬鹿にだって分かるわ」
「ほう」
「馬鹿にしたら駄目よ」
「馬鹿にしてない。彼女は本当に俺に気があったのか?」
「惚けても駄目よ」
「いや真面目な話、そんなことは全然知らなかったんだ」
「そんなら何で久美ちゃんの家なんかに行ったのよ。何かの話があるとしてもいきなり家に行くなんておかしいじゃないの」
「それは向こうがそう言ったからだ」
「部屋に来て頂戴って?」
「ああ」
「それじゃ誘惑してんじゃない」
「疲れてるから出かけたくないんだと言ってた」
「冗談じゃないわよ。疲れてるくらいのことで女が部屋に男を上げたりするもんですか。誘惑してんのミエミエじゃない。あんただって知ってて誘惑されたんじゃないの」
「うむ。そう言われると迂闊だった」
「迂闊で済まされないわよ」
「うむ」