妙子2-2
「お酒は強いんですか?」
「まあ普通だな」
「私は全く飲めないの」
「そうか。まあ全然飲めないホステスっていうのもいるな」
「新潟生まれなんだけど飲めないのよ」
「新潟は酒どころだな」
「うん。こんな仕事してるから飲めるようになろうと思って練習したことあんだけど、不味くて」
「好きな奴には美味いが、嫌いな奴には不味い」
「本当ね。こんなのを美味しそうに飲んでる人を見ると不思議な気がするわ」
「タバコは吸うのか?」
「少しね」
「タバコだって嫌いな奴は、煙なんか吸って馬鹿みたいだと思うだろう」
「うん。私も昔はそう思ってた」
「昔は吸わなかったのか」
「子供の頃の話よ」
「何だ」
「研さん。変わったタバコを吸ってる」
「さんは要らない。研でいいと言っただろ」
「あっ、そうだった」
「これは外国から帰った奴に貰ったんだ」
「美味しい?」
「さあなあ。俺は煙が出れば何でもいいんだ。特に美味いとも不味いとも思わない。吸うか?」
「それじゃ1本貰うね」
「そのトントンとやるのはな、やめた方がいいぞ」
「どうして?」
「昔のタバコはスカスカだったから、そうやって中身を詰めたんだ。だけど今のタバコはそんなことをする必要が無い」
「そうなの? 人の真似してタバコ吸うようになったから、癖まで真似して何時の間にか自分の癖になっちゃって」
「女はそんなことしない方がいい」
「タバコを吸う女は嫌い?」
「そんなことはない。タバコだろうと酒だろうと男女平等だ」
「へえ」
「女がシガレット・ケースから細くて長いタバコを出してライターでパチンと点けて吸ったりするのはなかなかいい。テーブルには赤ワインの入ったグラスが置いてあって女は黒いドレス着て座ってる。何か絵を見てるみたいな気がしないか?」
「そういう絵を見たことあるの? それとも映画?」
「いや。実物を見たことがある。外人の女だ」
「へーえ」
「美味いか?」
「うん。軽くて吸いやすい」
「いつも何吸ってるんだ」
「パーラメント」
「パーラメントだったら今度来る時持ってきてやる」
「わあ、本当?」
「そんなに喜ぶな。カートンじゃなくてバラでいくつかだ」
「うん。1つでも嬉しい。プレゼントはほんのお印でいいのよ」
「そうか。2つ3つなら煙草屋の婆さんがくれるんだ」
「何で?」
「婆さん独りで物騒だから用心棒にしたつもりなんだろう」
「研は用心棒やる程強いの?」
「まあ、婆さんよりは強い」
「それはそうね。でもお婆さんの煙草屋さんて何処?」
「商店街の入り口にある店だ」
「あれはお婆さんじゃないよ」
「婆さんだ。45歳だよ」
「そうなの? まだ30代に見えるよ」
「30代に見えても45だ」
「ひょっとして研に気が有るんじゃないの?」
「タバコをくれるから?」
「うん」
「それはないだろう」
「どうして?」
「あの婆さんにはちゃんと亭主がいる」
「そうなの? 見たことないな」
「煙草屋の上に行くといつもいる」
「上が住まいになってるの?」
「上は麻雀屋だ。そこの親父が婆さんの亭主だ」
「良く知ってるね」
「同じ町内だからな」
「そうか」