妙子2-10
「あ、携帯が鳴ってる」
「あ、俺です。すいません。もしもし」
「若くていい男だからモテモテなんだ」
「女泣かせって顔してるもんね」
「研さん、社長からです」
「ほう。もしもし」
「・・・」
「はい」
「・・・」
「分かりました。直ぐ行きます」
「何か仕事ですか?」
「いや、大したことじゃない。俺は行って来るけど、お前は此処にいろ。一緒に行く程のことじゃない」
「でも」
「いいんだ。此処は1時間5000円で、直ぐ出たって1時間分取られるんだ。時間が来るまで楽しんでろ」
「はあ」
「ねえ、戻って来る?」
「多分無理だろう」
「つまらないなあ」
「10分で帰ったって指名一つ稼いだことに変わりないんだろ?」
「そんなこと言ってんじゃないよ。研と話したかったのに」
「とか言って史郎と話してばかりいたじゃないか」
「妬いてんの?」
「馬鹿」
「ねえ、史郎っていう人あれから何度も来たよ」
「そうか。あいつの金で何処へ行こうが、それはあいつの自由だ」
「そうなんだけど、久美ちゃんに夢中みたいよ」
「それもあいつの自由だ」
「それもそうね」
「今日はいい服着てんじゃないか」
「え? こんなのが好きなの?」
「そうだ。そういうのを色っぽい服と言うんだ」
「これは私あんまり好きじゃないから滅多に着ないの」
「何で好きじゃない?」
「体締め付けるし、大きい胸が余計大きく見えるから」
「馬鹿。だからいいんじゃないか」
「そしたら今度研が来る時はこういう感じの服着て上げようか?」
「そうだな。それじゃ出勤時間の前に今日は行くぞって電話してやる」
「うん」
「と言ってもお前の電話番号を知らなかった」
「そうか。研は携帯持ってないからまだ教えてなかったんだっけ」
「ああ。俺は携帯電話というのが嫌いなんだ」
「どうして? 便利よ」
「便利過ぎて駄目だ」
「便利過ぎて駄目って?」
「いつでも誰かに監視されてるみたいな気がしてしまう」
「邪魔されたくない時は電源切っておけばいいのよ」
「それなら初めから持ってない方がいい。こっちから掛けたい時は電話なんて何処にでもある」
「そうだけど」
「そういう服を外で着ることもあるのか?」
「殆ど無いけど何で?」
「今度俺とデートする時はそんな服を着て欲しいと思ってな」
「デートしてくれるの?」
「それはお客が言うセリフだ」
「え? うん。デートする」
「それじゃ、その時はそんな感じの服を着てくれ」
「そんなことお安いご用よ。研と一緒ならどんな服でもいいよ」
「どんな服でもいい?」
「うん」
「そしたら海で着るような服は?」
「水着のこと?」
「馬鹿。水着を服と言うか。海や山に行ったような時に着る服のことを言ってるんだ」
「リゾート・ファッションのこと?」
「そうそれ」
「そういうのが好きなの?」
「そうだな。要するにあちこち露出しているような服が好きなんだ」