第5章 20年越しのキモチ-5
「俺、あのデパートにたまたまいて、文房具売り場にウロウロする友美を見つけたんだ。随分悩んでるなって思いながら影からずっと見てたんだ、実は。」
「や、ヤダ…、話しかけてくれれば良かったのに…。」
当時俊輔とはただの仲の良いクラスメイトという関係であった。ただのクラスメイトの為に1時間も悩みに悩んだあの姿を見られたのは物凄く恥ずかしい事であった。きっとその時の自分は好きな男子の為に喜んでくれるものを一生懸命に選んでいる乙女の姿をしていたであろうからだ。今でも覚えている。あの時は身も心も乙女であった。友美は赤面し言葉が出なかった。
「まさか俺のプレゼントを選んでいるとは思わなかったから、あんなに真剣に誰のプレゼントを選んでるのかなって思ってた。だからバレンタインの時にチョコと一緒にあのボールペンを貰った時はびっくりしたんだよ。俺の為にあんなに真剣になってくれたんだって思うと、嬉しくて。」
「ど、どう致しまして…」
友美はテンパり過ぎて良く分からない言葉を口にしてしまった。
「あんなに真剣に俺の為に選んでくれたボールペンを簡単に他人にあげてしまうなんて、俺はマジでクズだよ。本当、どうしようもない奴だ。」
もう友美には過去を掘り返して怒るつもりは全くなかった。話題に出たら軽く笑い流そうとしていた。しかししっかりと振り返る俊輔に気持ちが完全に動転してしまってた。そんな俊輔に、自分もしっかりと気持ちを伝えるべきだと感じた。
「もういいって、俊輔。確かに俊輔の言う通り、一生懸命選んだ私の気持ちを踏み躙られたような気がして頭に来て、でも悲しくて、その気持ちをどう俊輔にぶつけていいのか分からず…、いえ、ぶつける勇気がなくてああいう態度を取るしか出来なかったの。ぶつける勇気がなかったって事は、きっと私は俊輔と険悪な雰囲気になるのが本当は嫌だったんだと思う。もし喧嘩して2度と話せなくなるのも怖かったんだと思う。結果的にそれから20年も話せなくなっちゃった訳だけど、でもあの時喧嘩してたら今こうして普通に話す事も出来なかったと思う。どうして俊輔と険悪になるのが嫌だったか…、私ね、好きだったの、俊輔が。」
「え…?」
今度は俊輔が動揺する。
「好きだったから嫌われたくなかったの。どうでもいい人だったらそういう事されてもそんなに怒らない。好きな人に気持ちを踏み躙られたからきっと私は怒った。同時に悲しさも感じたけど、その悲しさこそ私が俊輔を好きだった証拠だったんだと思う。でもやっばりその時にどうしてそういう事したの?酷いよって言えたらよかったなって思う。そこでちゃんと解決してればもしかして今頃俊輔と一緒になれてたかもしれないなって、再会してからそう思えるようになったの。」
友美は自分で驚く程に素直な気持ちが口から出る。それは本音を伝える事が出来なかったあの時の自分にお手本を見せているかのようであった。そんな自分が今、とても気持ち良く感じているのであった。