第4章 過去を振り返る。-5
初恋の相手である恭子との強い想い出の陰に隠れて今まで思い出せなかったが、友美の事を考えながら振り返ると様々な事があった。俊輔は野球部のピッチャーをしており、1年生の時からエースでレギュラーであったが、2年生になり仲良くなってから無視されるようになるまでは試合の度に観に来てくれていた。次の日勝った時にはおめでとうと褒めてくれたし、負けた時には明るく励ましてくれた。俊輔が大ファンであったジャイアンツのグッズもたまにくれた。運動会の時、自分が走っている時に応援する人混みの中で不思議と友美の姿だけは気づく事が出来た。年に一回ある宿泊学習の時に女風呂を何人かで覗いていたのを見つかり、罰として一部屋一部屋、「僕達は女風呂を覗いてしまいました!すみませんでした!」と謝罪させられた時も、冷たい視線を浴びせる女子が殆どのところ、友美はやはり意地悪そうな笑みを浮かべてからかってくれた。その他にも一場面一場面で友美はずっと自分の事をみていてくれた事を思い出した。
「なーんか俺、友美に見守られていたんだなー、ずっと。」
自然とそう呟いた。
そこで気付いた事がある。それは…
「もしかして友美って…、俺の事がすきだっのか…?」
だ。今までそんな風に考えた事はなかった。しかしそう考えた方がずっと自分を見ていてくれた事や、何故無視されたかを思えば釈然とする。20年経って気付いた事に自分でも驚きを隠せなかったし、だとすれば自分はとんでもなく鈍感な人間だと情けなくなった。
「最悪だな、俺…。友美に本当に酷いことしちゃったんだ…」
様々な経験をし、恋愛もそれなりに経験を積んで来た今なら、友美が自分にしてくれた事全てが自分を好きだからのものだったと断言出来る。友美は自分を好きだったんだ…、そう思うとあの時から20年と言う歳月の重みが俊輔の体に重く重くのしかかって来たのであった。
「俺の初恋も…友美だったのかな…」
学校に行き会話するのが楽しかった。メールでエッチな事をやりとりするのも好きだった。友美にいいとこ見せようと部活で一緒懸命にもなった。人生初のバレンタインデーに貰った女子からのチョコレートは当時飛び跳ねて喜んだ。正直、週に何回かは友美でもヌイた。恭子に遠くから想いを寄せていた裏で密かに存在していたもう一つの淡くて近すぎる思いがあった事を今になってようやく気付いた俊輔なのであった。
「友美としっかり話さなきゃ…。」
今更どうなるものでもない。過去はもうやり直せない。しかし過去の思い出を2人にとって良いものに変える事は出来る。ほんの少しの勇気さえあれば…。
「明日はしっかりと話さなきゃ。」
そう思いながら俊輔は中学時代にラケットでボールを打ち合っていたあの頃の事を思い出していたのであった。