ギリギリのライン-1
「ごめんね、驚かせちゃったね、急に大きな声出して。」
「いえ、私がしっかり浮けてなかったから…。」
スイムキャップを外し、更衣室のベンチに並んで座った。
「ホントごめん。」
彼女の肩をギュゥっと抱き寄せた。さっきまでスイムキャップに押し込んであった藤谷さんの長い黒髪が揺れて、私の鎖骨を撫でた。それは少し湿っていて、微かに冷たく感じた。
「涼水原先輩…。あの…。」
呼吸音が聞こえるほどの近さに藤谷彩乃の顔がある。陶器の様に白くきめ細かい肌がほのかに赤みを帯びている。大きな黒い瞳、長いまつげ、高さはあまりないけれど顔の中央をスッキリと通った鼻筋、そして。
「大丈夫?ちょっと紫になってるよ。」
私は左手の人差し指を彼女の顔に近づけていき、そっと下唇に触れた。指に押されたそこは少しだけ開き、小さな舌がその中で動くのが見えた。藤谷さんは少し驚いたように目を見開いたが、避けようとはしない。
「柔らかいね。美味しそう。どんな味がするのかなー。」
彼女の瞳が潤うように揺れた。
顔を寄せていった。彩乃ちゃんの瞼が少し降りてきた。
「逃げないの?ホントに頂いちゃうぞ。」
チュ。
「あ…」
頬にキスされた彩乃ちゃんが小さな声を漏らした。
「ダメよ、簡単に許しちゃ。大切な人のためにとっとかなきゃ。迫っといて言うのもなんだけどね。ふふ。」
彼女はぼんやりしている。
「で、本題なんだけど。さっき私が大声出した理由。」
「あ、そうですね、どうかされたんですか?」
我に返ったように訊いてきた。
「あのね。」
私は立ち上がり、ベンチに右足を乗せ、足の付け根を指さした。
「ここ。けっこうキワドイ所まで攻め込んでるでしょ?水着のライン。」
「は、はい。」
彩音ちゃんは目のやり場に困っている。
「で、さっきあなたが浮いてきた時にそこを見たら…。」
「え!」
彼女はビクンと飛び跳ねるような勢いで自分の股間を覗きこんだ。そして一瞬で足をキュっと閉じ、両手を乗せた。顔が真っ赤だ。
「そういうこと。」
「あ、あ…、あ。」
「珍しいことじゃないの。普通のスク水とかブルマの感覚で手入れすると、そうなる。たぶん、今プールに居るあなたの同級生たちの中にも何人も居ると思うよ、はみ出してる子。」
「は、はみ…。」
「ただ…。あなたみたいに清純でおとなしい子がその状態になってるのを見て、ギャップで驚いちゃったの。珍しくない、とか言っておきながら、なんだけど。なぜか彩乃ちゃんに限ってはショックが大きかったわ。」
「ご、ごめ、ご、ごめごめ…」
「謝るのヘンよ?こっちこそ恥ずかしい思いさせちゃったんだから。でも、放っておいてさらに恥ずかしい思いをさせたくないから、敢えて言ったの。分かってほしい。」
彩乃ちゃんの顔はまだ真っ赤だが、いくぶんの明るさが戻ってきた。
「はい…ありがとうございます、涼水原先輩。」
私は頷いてベンチから右足を下ろした。
「ちょっと待ってて。」
私は自分のロッカーを開いてゴソゴソし、ハサミとピンセットを持って戻った。
「え、まさか…。」
「そ、まさかのお手入れ。」
「こ、ここで?」
「ここで。」
「今?」
「今。」
「…。」
「このあともプール入るでしょ?まだだいぶ時間あるから。」
「それは…そう…ですけど。」
「さ。すぐ済むから。」
モジモジしているが、やっぱりプールには戻りたいようで、意を決したように手を出した。
「では…お借りします。」
彼女が掴もうとしたお手入れセットをヒョイと引いた。空振りした彩乃ちゃんがきょとんとしている。