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女の扉 上
【同性愛♀ 官能小説】

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You say Hello, You say Goodbye-1

 「はじめまして。藤谷彩乃(ふじたに あやの)と申します。水泳は体育の授業でしかやったことがないのですが、一生懸命がんばります。よろしくお願いします。」
 パチパチパチパチパチパチ。
 震える唇、掠れる声。それでも彼女は立派に水泳部への入部挨拶をやり遂げた。内気で人見知り…外見からのそんな印象は大きく外れてはいないようだが、しっかりと芯の通った心を持っていることを私は確信した。
 「藤谷さんありがとう、そっちに座って。」
 部長の松村志歩先輩が、更衣室兼水泳部部室の中央に並んだベンチを示した。
 「今年の入部者は以上7名となります。みなさん、新しい仲間を迎え、よりいっそう楽しく泳ぎましょう。そして。」
 …。
 「そして…。」
 ついにこの時が来てしまったのか。
 「私は本日この時をもって引退…う…。」
 私は立ち上がって志歩先輩の手を握った。他の二年生たちも立ち上がった。
 「…やめてよ、余計に…。」
 一年生たちはこの雰囲気に馴染めない様子でぎこちなく座っている。それはそうだ。彼女らは、私たちと志歩先輩とが共に過ごした日々を知らないのだから。
 「ごめんなさい。はい、そういうわけで私は引退です。まだ学園には居るけどね、卒業まで。」
 ちいさな笑い声が起きた。それは、少し湿っていた。
 「それでは、新しい部長の涼水原沙楽(すずみはら さら)さん。」
 「はい。」
 私が後を引き継いだ。志歩先輩の手をしっかり握ったまま。
 「えー、松村志保先輩は今日で引退されますが、いっぱいいっぱいお世話になったその感謝の気持ちは、新しい後輩たちを大切にすることによって返していきたいと思いますが、どうでしょうか?」
 パチパチパチパチパチパチ。
 「ありがとう、ありがとうみんな。これでお別れなんて信じられないけれど、今までも、そしてこれからも、ありがとう。」
 パチパチパチパチパチパチ。
 「あ、卒業までは学園に居るから、見かけたら声かけてね。そうじゃないと寂しいから、お願いね。」
 さっきよりいくぶん明るい笑いが起きた。
 志歩先輩は目をつぶって深呼吸をひとつした。
 「それじゃあみんな、ありがとう。さようなら。」
 彼女の手と私の手がゆっくりと離れていった。
 パチパチパチパチパチパチ。
 彼女は一礼し、拍手と鼻をすする音に見送られて更衣室を後にした。
 …こういう気持ちだったのかな、霧子先輩が引退したときの志歩先輩も。そして私が引退する時には。
 藤谷彩乃と名乗った内気な美少女を見た。彼女はまっすぐに視線を返してきた。


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