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女の扉 上
【同性愛♀ 官能小説】

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桜並木-1

 「今年もたくさんの後輩たちが入学してきたわね。」
 松村志歩(まつむら しほ)先輩が感慨深げに呟いた。視線の先には、桜並木を歩いて初登校してくる真新しい制服の新入生たちの姿があった。緊張で固くなっている子、晴れやかな笑顔で桜を見上げている子、少しテレた様に俯いて足元に舞うピンクの花びらを見つめている子…。それぞれが、それぞれに。思い想いの心を抱いて自分のリズムで歩いてくる。ゴールは今私たちが立っている校門ではない。この門はスタートラインなのだ、彼女たちの学園生活の。
 「…あれからもう一年経ったんですね。」
 去年の私もあんな風に桜並木を歩いた。そして…。
 「あなたったら、制服の着こなしが無茶苦茶だったわよね。」
 「やめてくださいよー、一年も前の事じゃないですか。それに緊張でそれどころじゃなかったんですから。」
 「そうそう、ガチガチ。綺麗な顔してるのに台無しだったわよ。」
 「そういう志歩先輩だって、緊張した表情でここに立ってたじゃないですか。」
 「あら、そうだったかしら。」
 私たちは自然に微笑み合った。
 ボフッ。
 いきなり後ろからふたりまとめて肩を叩かれた。
 「おーい、お二人さん。私の事忘れてないかい?」
 制服姿の私たちとは違い、大きなロゴの入ったスウェット上下に身を包んだ藤堂霧子(とうどう きりこ)先輩が後ろでニィーっと笑っている。
 彼女は志歩先輩より一学年上で、私が入学したときには三年生だった。二人が仲良く話している姿を見て、入学したての私はうらやましくて仕方がなかった。でも、それももう昔の話。
 「霧子先輩、いいんですか?就職して間の無いスポーツクラブにいきなり遅刻して。」
 「いいさ。今日は私たちにとって特別な記念日だからね。」
 二人はにっこりと笑った。
 「ええ、そう…そうですね。とても大切な、私たちみんなの…」
 「分かってて訊くなよ、志歩。」
 グリグリ。
 「い、痛いですって、霧子先輩。」
 頭をグリグリされた志歩先輩は痛がりながらも目が笑っている。
 二人は対照的だ。正反対と言ってもいいかもしれない。
 茶色に脱色した短髪の霧子先輩は、その見た目通りの豪胆な性格。細かいことは気にしない。細かくないことも気にしない。でも、やることはやる。やらなくてもいいこともやる。…まあ、なんだかんだ言っても私たちにとっては頼りになるアニキのような存在だった。
 対して志歩先輩は、肩にかかるセミロングヘアを優雅に揺らす姿がサマになるオトナの女。彼女の知性を象徴するような切れ長の目と長いまつ毛はややもすれば冷たい印象を持たれがちだが、私を見つめる瞳はいつも温かい。
 「初々しいなあ、彼女たち。私にもあんな頃があったんだなあ。」
 新入生たちの初登校の列が私たちの前を通り過ぎていく。
 「あら、そうなんですか?初耳ですわね、霧子先輩。」
 「志歩、オマエ居なかっただろ、そのころ。」
 そんな二人の首には、お揃いのシルバーネックレスが掛かっている。そして私の首にも。
 「だから、痛いですってば…。」
 特に校則で決まっているわけではないのだが、ほとんどの在校生は校門へと続く並木道の両サイドに立って新しい後輩たちを出迎える。そうする理由を敢えて述べるとすれば、自分たちもそうやって迎え入れてもらったから、ということになるだろう。
 「あ…」
 その時、一人の少女と目が合った。彼女は少し驚いたような顔をし、何か言いかけた様に口が動いた。
 前髪を眉の高さできちんと切りそろえた漆黒のロングヘアー。腰まで届きそうなその髪は艶やかな深い輝きをたたえ、枝毛一本見当たらない。なんの穢れも知らぬ清純さを匂わせるその顔は、滑らかな白い肌の頬を微かに朱に染めている。やや俯き加減の表情は少し怯えた様にも見えるが、しっとり濡れたような大きな瞳に迷いは感じられない。小柄な体の動きにもぎこちなさは無く、確実な足取りで近づいてくる。
 「な、なんですか、お二人とも。」
 そんな彼女を見つめていた私を、いつの間にか霧子先輩と志歩先輩が無遠慮にジロジロ見ていた。
 「なんでもありませーん。」
 「なんでもないわ。」
 二人の先輩たちは顔を見合わせてニヤニヤしている。
 「なんでもないわけ…」
 そう。なんでもないわけがない。
 一年前の今日。この桜並木を歩いて初登校していた私は一人の女の人と目が合った。その人は少し驚いたような顔をし、何か言いかけた様に口を動かした。
 私たちは出会ったのだ。入学式の日の桜の花びらの中で。
 「さてっと。そろそろお客さんをシゴきにプールに行くわ。あとよろしくな、松村志歩…さん。」
 そう言って差し出した霧子先輩の手には、いつの間にか首から外したシルバーネックレスが乗せられていた。
 「ええ。さようなら、藤堂霧子…さん。」
 黒髪の少女はもう目の前だ。
 ようこそ、わが学園へ。ようこそ、まだ名も知らない、あなた。


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