クリスマス・イブ-2
2.
池袋駅北口から遠くないところに、雅子の店がある。
事件の無い時は、敦夫は店に寄って暇をつぶす。支払いは、ある時払いの催促無しだから、気楽だった。
「義兄さん、来てくれるだけで嬉しいんだから、お金は要らないのよ、用心棒にもなるし・・・」
雅子が受け取りを渋っても、月末には必ずチップを付けてきれいにした。
姉の直美は、乳癌で2年前に死んだ。
丁度殺人事件の追い込みで、敦夫は妻の看病どころか、見舞いにも顔を見せなかった。
直美は姉の看病に張り付いた。
結局、敦夫は妻の死に目にも間に合わなかった。
それ以来、事件に追われない時は、雅子の店に来て一杯のバーボンを眺めながら、じっと座ることが多くなった。
姉の死は、雅子にも辛いことだった。カウンターで座り続ける敦夫を見るのも、辛かった。
が、雅子には一筋の光明が指してきた。
(敦夫さんが独りになった。もう義兄さんじゃない)
カウンターに座り続ける寂しげな男。
訳も無く、雅子のバーに通ってくる筈が無い。死んだ妻の妹と言う以上の、何かがある筈だ。
(もしかして、私に気があるのかしら?)
そう思うと、胸がほんのりと疼いて来る。
想いは勝手に膨らんでいく。
(きっとそうよ、死んだ妻の妹に手を出すことに、躊躇いがあるのね、そうでなきゃ、用も無いのに独りでカウンターに座っていたって、面白いことなんて無いんだから)
自棄が手伝って、気も無い男に身を任せ、身篭って降ろした。詰まらない経験をしたものだと後悔をする。
男を知ったことで、独り寝の寂しさを知った。
姉と敦夫のツーショットの写真を、2つに切り離した。
(姉さん、ごめんなさい)
独りになった敦夫の写真を、枕の下に隠した。
乳首が痒くなると、掛け布団を抱きしめた。
「義兄さん、姉さんが死んで貴男どうしているの?私でよかったら、遠慮要らないんだから、・・・・。私を抱いてっ」