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大晦日の夜に
【青春 恋愛小説】

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大晦日の夜に-5

 亮太は聡の弟であり、美咲の彼氏でもある。
葵に連れられて聡の家族と一緒に出掛けたりするうちに、聡と同じく亮太とも自然に話すようになって仲良くなった。
 付き合い始めたのは3年前のことで、亮太が大学を卒業して遠方の会社の寮に入ることが決まったときに、美咲の方から告白した。
 それまでもなんとなく付き合っているような感じではあったけれど、亮太はいつまでたってもはっきりと言葉で気持ちを表すようなことはしてくれず、痺れをきらした美咲が「大好き」と伝えると「俺も」とあっさり返ってきた。
 ドラマチックなことは何もない。
 ただ一緒にいるだけで楽しくて、時間があっという間に過ぎてしまう。
 その後は年に数回、長期の休みがあるたびに戻ってきてくれるものの、やっぱり会えない日々が寂しすぎて美咲は不満をつのらせていた。
 おまけに、いつまでたっても手を握ろうともせず、キスだってしてくれない。
 もしかして、浮気してる?
というか、他の女の子が本命でわたしが浮気相手だったりして。
 わたしのことなんて、ほんとは好きでもなんでもないんじゃないの?
 あれこれ想像して悩むたびに、聡と葵は『そんなはずない』と笑い飛ばすが、美咲は全然笑えなかった。
 よくよく考えてみれば、この3年ずっと連絡は美咲のほうからするばかりで、亮太から何かアクションを起こしてくれたことは一度もない。
 ふたりの記念日やイベントごとのデートもいつだって美咲が計画し、亮太はそれほど楽しそうな顔をするでもなく、ただ一緒についてくるだけだった。
 好きだとも、愛してるとも言ってくれない。
 なんなら、まだ聡のほうが『美咲ちゃんはいつも可愛いね』とお世辞にでも言ってくれるだけ救いがある。
 こんなの、付き合ってるって言える?
 何ヶ月かに一回、美咲はそうした不満を爆発させて亮太と喧嘩になり、やっぱり言い過ぎたと反省してまた美咲のほうから謝って仲直りする。
 だから美咲と亮太の喧嘩は、もう何度となく繰り返してきた年中行事のようなものだった。
 ところが、今回はいつもと少し事情が違う。
 イベント好きの美咲のために、亮太は毎年クリスマスイブには帰って来てくれていたのに、今年は直前になって急な仕事が入ったとかで帰って来られなくなった。
 計画していた予定はすべてキャンセルとなり、美咲は楽しみにしていた分だけショックも大きく、わんわん泣きながら電話で亮太を責めた。
『亮太、わたしと会いたくなんかないんでしょ』
『もういい、別れる』
『亮太なんか大嫌い』
 他にもひどい言葉をたくさん口にした。
 亮太は『ごめん』『大晦日には帰るから』とだけ言って、あとは黙っていた。
 美咲は怒りのおさまらないまま電話を切り、デート中だった葵を家に呼び戻して泣きじゃくりながら愚痴を聞いてもらい、聡が買ってきてくれたクリスマス用の大きなホールケーキをひとりで全部食べ、気持ち悪くなってまた泣いた。
 それ以来、亮太とは連絡をとっていない。
 意地でもこっちから電話なんてしたくない。
 むこうから連絡してくるなら、話くらい聞いてあげてもいいけど。
 とか思いながら、毎日チラチラとスマホの画面を気にしていたのに、亮太はメールのひとつも送ってこない。
 帰ってくる新幹線の時間がわかったのも、聡が教えてくれたからだ。
 別れたいなんて、本気じゃないってわかってるよね?
 あんなこと言うつもりじゃなかった。
 嫌いなんて嘘。
 大好き。
 亮太に嫌われたらどうしよう。
 許してもらえなかったら……。


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