弾ける記憶-2
清志くんは静かに笑っている。
「ほんとに、末恐ろしいおねえさんだ。」
「も、もしかして、私のせいで女性恐怖症になって、ED…。」
「EDを治療しようとした医者が実はEDにさせた張本人でした、っていうマンガみたいな展開?」
「あ、あの…えっと…。」
「それを診断するの、先生の仕事じゃないか。」
彼はイタズラっぽく笑った。
「それに、たぶん違う。」
「どうしてそう思うの?」
「…それはね。」
キュっと唇を結び、視線を床に落とした。
「蘭火なんだよ、初めての相手って。」
や、や、やっぱりそうなんじゃない!
「落ち着いてよ、諒子さん。」
あれ?顔に動揺が出た?
「最初の診察の時話したでしょ?初めての時ダメだったって。」
「あ、うん。」
「剣太朗おじさんのお葬式の翌日、心配になって蘭火の部屋に行ったんだよ。予想通り泣いてた。いや、涙はもう枯れてるのに、ずっと泣き顔をしていた。大丈夫?って声を掛けたら言われたんだ。私、可哀想に見える?だったら体で慰めてよ、ずっと好きだったの知ってるでしょ!って。」
「それで応じた…。」
清志くんはゆっくりと大きく頷いた。
「でも、勃たなかったのね。」
「そう。彼女をとても大切に思っていたし、慰めたいと本気で思っていた。なのに…。」
「そっか…。」
「で、ここを指さしながら、それ、どういう事よ、私じゃ出来ないって言うの?って叫んで何か硬いものを投げつけてきた。」
「それってもしかして、それと同じ写真の入ったフォトフレーム?」
彼の手元を見た。
「うん。僕自身、ぶつけられたことは忘れてたんだけどね。それより蘭火を慰められなかった事が強く記憶に刻まれたから。」
「…私がぶつけた事でそれを思い出した。」
「そう。諒子さんのおかげで記憶が弾けた。ものすごくショックだったということも。なんで忘れてたんだろ?」
清志くんは首を左右に振って考えている。
「それはね…。」
彼の目をしっかりと見つめた。
「受け入れちゃったんじゃないかな、罰として。彼女を抱けなかった自分に対する。」
「罰…。」
「勃たないことを指摘され物をぶつけられるなんて、男の子にとっちゃとんでもない屈辱じゃない。女の子が、オマエ濡れないな、って言われちゃうのと同じでさ。」
「ああっ!」
いきなりの大声に私は以下略。
「な、なに?どうしたの。」
清志くんはいきなり立ち上がり、私の方を向いてバッと頭を下げた。
「ごめん!」
「ちょ、何がよ。」
「さっき僕は言ってしまった。諒子さんに。濡れてない、って。」
「あー、それは清志くんも言ってたじゃない、義務感でしようとするから…ん?」
「ん?」
「んん?」
「んん?」