生け贄はサンタクロース-1
「いやあ、この度はお世話になりました、先生」\r\n\r\n「いやまあ、向こうの令状にも不備がありましたからね」\r\n\r\n「いやいや、先生ならではの手腕です。感服いたしました。で、明日夜はクリスマス・イブという事で」\r\n\r\n「残念ながら現行の法制度はキリスト教の教えには程遠いものです」\r\n\r\n「先生に洒落たクリスマス・プレゼントをですね」\r\n\r\n「いや、私は酒はやりませんから。いつかみたいにレミー・マルタンをダースで贈られても」\r\n\r\n「まあ、先生のご趣味は伺っておりますので。ささやかですが」\r\n\r\n「はあ。なんですかな」\r\n\r\n「ははははっ、お・た・の・し・みって事でひとつ」\r\n\r\n「言っておくが、くれぐれも無粋な真似はせん事だな。私は清廉な性格なんでね」\r\n\r\n\r\n\r\nそんな話を交わした事すら忘れる程に事務所は忙しかった。\r\n民事と刑事事件の狭間にあるグレーな弁護というものは思ったより多くの依頼が押し寄せ、株主と総会屋との調整まで手に染めている。\r\n\r\nだから、自宅と繋がった事務所の秘書が大きなスリットの入ったスカートから真っ白く肉付きの良い太腿を古江見よがしに露出しながら、思わせぶりな色目を使ってしびしび退出しても「良いクリスマスを」の一言も思い出すことは出来なかったのだ。\r\n\r\n一人になった事務所のドアがノックされ、許諾もしないうちにドアが開く。\r\n\r\nどこから借りてきたのか判らないくたびれたサンタクロース装束は借り物だろう。紅いボンボンの付いた帽子が額の傷をさらに険しく、陰険に演出している。\r\n\r\n「なんの真似だね、ヤー公」\r\n\r\n男は卑屈な笑いを浮かべて、引き攣れた面の皮をさらに醜く歪ませて微笑んだ。背中には薄汚い大きな白い袋を背負っている。\r\n\r\n「若頭ぁからの、贈り物、でして。なんでも、こんな、もんが宜しいって、おっしゃいますんで。どっこしょ、っと」\r\n\r\n\r\nそう言うと男は背中に背負った大きな袋を下ろし、それをひっくり返す。\r\n\r\n白い袋から転がり出てきたのは全裸の少年だった。\r\n\r\nいや、首に紅いリボンが巻き付けられているだけの。\r\n\r\n年の頃は11〜2歳? 力無くぐったりとまろびでて、毛足の長い絨毯に転がり落ちている。\r\n男の子にしては長めの髪の毛はザンバラに切られ、ぞんざいだが、その姿態はなかなか。とりわけ背筋の筋肉が奇妙な色気を醸し出している。肌の色はオリエンタルな鳶色だった。\r\n事務所のダウンライトの下で少年独特の肩胛骨の「翼の痕」が青い影を落とす。\r\nそれは奇妙に蠱惑的な色香を香らせていた。\r\n\r\n\r\n