みずいろ-1
『こちらにおいで、恵莉』
椅子の向きを変え、少女を膝上へと誘う。
「ぅん」
恵莉は小さく頷くと、おずおずと華奢な身体を青年にあずける。
両膝を閉じたまま緊張した面持ちで、白く細い指が眼鏡のフレームをなおす。
『力を抜いて』
「……ぅっ、ぅん」
返事を待たず青年の右手が、膝に乗せた少女のスカート裾へと伸びる。
膝下丈のスカート生地がゆっくりと捲りあげられていくと、太腿つけ根を隠す下着がのぞいてくる。
好色の笑みが、青年の口端に浮かぶ。
穢れを知らぬ無垢なる存在…… だからこそ、なんの飾り気無い綿の下着が良く似合う。
パンティと呼ぶにはまだ早い質素な白い綿の下着に、青年の下腹部の滾りが増していく。
拡げられた太腿にそっと左の掌で触れると、産まれたての子猫を愛でるように撫でる。
「おにいちゃん、恥ずかしいよぅ」
吐息まじりに呟く。
『こんなに、なってるのに?』
左手で内腿を撫でながら、右手指先が下着のクロッチ部分へと這う。
柔らかい膨らみの中心から発せられる熱は、少女を包む布地に憂いを与えていく。
「…… 」
無言で振られた首に合わせ、編み込まれた髪が大きく揺れる。
見られ、触れられることで、無垢な身体にはみるみる熱がこもっていく。
これからはじまる行為の予感に、幼気なこころが反応しているのだ。
『恵莉に、もっと触れたい』
唇を赤らむ耳元に寄せ囁く。
「ぅんっ、恵莉も…… おにいちゃんに…… 」
出逢いから僅か一ヶ月、小学五年生の逢沢恵莉は、ひとまわり以上歳の離れた青年の想いを受容れていくことになる。
それは“恋愛”と言うにはほど遠く歪な関係であったが、少なくても少女にとって掛け替えのない“者”と言えた。
……きっかけは些細な出来事。
普段から本を読むことが好きな恵莉は、身近な本に飽きると図書館に通うようになる。
大人しく内気な恵莉はクラスでもどちらかと言えば浮いた存在で、その心はいつの頃からか本の世界へと傾倒していった。
その為、いつも一人でいることが多かったが、本当は自分を理解してくれる存在を心から望んでいた。
そんな時、出逢いは偶然に訪れる。
淋しさを紛らわす為、図書館で過ごす時間が増える恵莉であったが、その日はどうしても持ち帰って読みたい本があった。
でも、貸し出しをしてもらう手順がよく分からずに困っていた。
ひと言職員に声をかければ済むことなのだが、それが恵莉にはどうしてもできなかった。
カウンターに居る大人が、とても遠く怖い存在に思えてならなかったのだ。
本を片手に思案顔でウロウロしていると……
『どうしたの、その本を借りたいの?』
受付にいた大人が優しく声を掛けてくれた。
それが司書補の青年との出逢いであった。
恵莉は今まで以上に、足繁く図書館に通うようになっていく。
結果的にそれが、恵利から学校や両親の存在を更に希薄にさせてしまう結果に繋がる。
小学五年生の少女と二十六歳になる青年とであったが、共通の趣味を持つ二人にとってその距離が縮まっていくのに時間はかからなかった。
少なくても青年はそう演じながら、無垢な少女の“こころ”を蝕んでいったのだ。
思春期少女が抱く、大人への憧れに似た想いを利用しながら……
『これは大好きな男の子と女の子だけがする特別なこと…… だから、“おにいちゃん”と“恵莉ちゃん”だけの…… 誰にも内緒、二人だけの…… 秘密』
上質の焼き菓子に似た匂い、甘さ燻らす少女の身体を抱きしめながら、男の手は三つ編みの髪を愛おし気に撫でる。
「……はいっ、おにいちゃん」
出逢いから僅かであったが、恵莉が青年の想いを受容れた瞬間であった。
小さな唇から紡ぎ出された決意とは裏腹に、華奢な身体からは震えが止まることは無かった。