みずいろ-2
『触ってごらん』
青年は意識して、ゆっくり囁いた。
はじめて目にした“おとこのこ”に戸惑いながら、恵莉の白い掌が青年の下腹部へと伸びていく。
しかし握るように触れば良いのか、軽く触れるように撫でれば良いのかも分からず躊躇う。
『ほらっ、先っぽがヌルヌルしているだろう? 男の子は大好きな女の子の前だとこうなる』
緊張を取るように、軽く言葉を並べる。
それでも大蛇の如く鎌首を擡げ、濡れに包まれたペニスは恐怖の対象で、触れる間際で掌を浮かせ思案する恵莉。
『だから、おにいちゃんも恥ずかしい』
「おにいちゃんも ……恥ずかしい!?」
恐れから、うわずった声が青年の言葉をなぞる。
『怖がらないで、形を確かめるように握るんだ』
「はっ、はい」
まるで授業中の生徒のように応えると、小さな掌のなかに脹れあがったペニスが優しく包まれる。
『ゆっくりと慌てずに、棒を擦るように上下に動かしてみて』
掌と沿わされた指全体でなんとか握ると、恵莉は教えられた通りに擦る。
すると亀頭からヌルヌルとした淫汁が溢れ、裏筋をつたいながら無垢な掌を穢す。
『はあぁぁっ、そう、そっ、その調子で撫でて』
想いが叶ったことと、濡れの滑りが心地よく青年の声もうわずる。
だが、言われるままペニスを扱くことができず、恵莉の小さな肩が震え手の動きがぎこちない。
(震えている、はじめて触れる男の身体に怯えているんだ。たまらねえ、ペニスに触れて恥じらい震えている。ペニスの濡れを恐れているんだ)
恐怖から指でしっかり握れず、無機質な物に触れる感覚の恵莉。
『怖くなんかないさ。コイツもおにいちゃんと一緒で、恵莉ちゃんのことが大好きなんだ』
「!?」
恵莉の驚きが小さな手に現れる。
『だから恵莉ちゃんに触ってもらって、喜んでる』
握る指が回りきらない、人差し指と親指の先が届かないペニスの根元がビクリッビクリッと震える。
それに合わせ脹らんだ先端からは、トロトロと淫汁が溢れ、裏筋へとつたう。
『嬉しい、嬉しいよ、恵莉』
声を震わせ悦びを口にする青年。
それは大人しく内気な恵莉のなかで、何かが芽生えた瞬間であった。
“おにいちゃん”と親し気に呼びながらも、その実、聡い恵莉は大人である青年との距離感を確実に感じ取っていたのだ。
しかし、その大人の存在である“おにいちゃん”が、嬉しさと喜びを口にしながら自分の名前を呼んだことで、幼い“こころ”が震えた。
対等の存在として認めてもらえた喜びに、恵莉の“こころ”が開かれていく。
『もっと喜ばせて…… 可愛がって欲しい。お願いだ、恵莉』
切なげに告げる青年。
「どうしたら…… ぃぃっの?」
頬を朱に染めながら、幼い身体が上気していく。
『強く握りながら時折緩めて、上下に擦るのを繰りかえして』
悦びから声が裏返りそうなのを必死に堪え、要点を伝える。
(ああっ、僕の恵莉。僕だけの恵莉ちゃんに…… っ握らせているんだ!)
はじめて目にした時から、恋い焦がれた名も知らぬ少女。
その日から届かぬ想いと知りながら、自慰行為を繰りかえした日々に思いを馳せる。
眼下では三つ編みの穢れを知らぬ少女の掌が、必死になってペニスを慰める光景が映る。
薄暗い天井、蛍光灯の明かりが、脹らんだペニスの赤黒さをより深くさせる。
それは青年のなかに巣喰う淫猥な欲望が、反映されているせいなのかもしれない。
ペニスの色だけでなく、太さもカリ首の括れも深く刻まれ、はっきりと血管が浮かびあがっている。
恵莉に握らせる悦びが、興奮が、青年のペニスを異様に脹らませ迸りへと誘う。
輝くように真っ白で優しさに満たされた指と掌が、なのに、淫猥な想いをより深く滾らせる。
「おっ、おにいちゃん、うれしい? こうすれば、恵莉はっ……大人にっ。おにいちゃんと恋人になれる?」
恥じらい顔を紅潮させながら、見上げてくる大きな瞳は、薄いレンズ越しにそう問いかけてくる。