蓮の決意-12
彼女はキッと睨みつけるが如く目を尖らせ、唇は常に閉じていた。その顔は普段僕の冗談にツッコミを返す、そんな明るい彼女とはかけ離れていた。
「巴……その。」
「……。」
あたふたと何を言おうと必死な僕、それに相反し頑なに口を閉じる巴。
「僕は……。」
「言っとくけど！」
「っ！」
「私は自分に全て非がある何て思ってないから。」
浮気はパートナーにも責任があると言う訳か。
「僕は、君を…巴の事をちゃんと考えてあげられなかった。」
「そうね。」
「昨日も色々と考えて。」
「後をつけて来たんだよね？正直気持ち悪かった。」
「気づいて。」
「まっ、ちらっと誰かが走り去っていくのを見かけただけだけどね。」
「……。」
その口調は先ほどとは少し軽くなったように見える。
「で？アレは何？…てゆーか何の用？」
「それは…。」
「まさか、取り戻しに来た訳？」
確かに、最初はそのつもりだったけど。
「そうだよ、でも気持ちが変わった。」
「？」
「巴、君はとても楽しそうだった僕何かと居るよりあの人と居る方がとても。」
「蓮…。」
「正直言えば辛い、辛いよ…、でもそれが君の幸せになるなら僕は。」
「それって。」
姿勢を正し、一歩後ろに引き。
「巴、今までありがとう、こんな僕を好きになってくれて、悪態はついてもそこには確実にあった僕への愛情。」
「……。」
「君と過ごした日々はかけがえのないものでとても楽しかった、けど、もうこれまでだ僕は君を幸せにする自信がない、だから、さよならを言いに二人にお願いして。」
今にも胸が張り裂けそうだ、でも堪えなきゃ。
「蓮…。」
「……じゃ、じゃー言いたい事は言った訳だし、僕はこれで。」
逃げるように彼女に背を向け公園を立ち去ろうとする。
「私こそっ！」
「！」
「私こそ、楽しかったよ…アンタと共に過ごせて。」
「…。」
「でも勘違いしないで、私がアンタを捨て彼に乗り換えたのはアンタに嫌気がさしたからじゃない！」
「え。」
「このまま続けててもアンタの事だから、私を今みたいに傷つけてしまったと気にして強い自己嫌悪に苛まれて、…私自分のせいでそんな困るアンタを見たくないの。」
「……。」
巴…、そんな風に。
「お互いすれ違うだけでそれが上手く相手に伝わらない…、小鳥遊君良いこと言うね。」「…。」
「このまま続けても私にとっても、そして蓮、アンタにとってもマイナスでしかない、私は彼と黒崎と幸せに生きていく、それがアンタの負担を減らせると信じて。」
そう言い放つ彼女の声に迷いはなかった。
「私はこれからアンタとは一歩引いた関係になる、でも決して嘆かないで、今は悲しくてあの時こーしていればと、巴の奴酷いよ、最低な薄汚い浮気女と、恨んだとしても何をするにしても力が入らず目にするもの全てが灰色にしけて見えたとしても、必ずアンタの人生に輝かしい明るい未来が訪れるから！」
「うっ、うう。」
「じゃ！…今までありがとう蓮。」
そう言って彼女はスタスタと僕の居る公園を後にした。
そうだね。
きっと、これでいいんだ。
お互いの為、僕は…頑張らないと。
……。
「うっ！ううっ。」
巴…、巴巴巴っ！
「うっ、……うううっ、…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！！」
早く立ち直らないと、ね。
次回、７３話に続く。