無重力-1
「いいですかぁ!座ってしまえばもう後戻りはできませんよぉ!」
小さな笑いが起こった。
以前の私なら絶対に乗らなかったのだが。
係員のお兄さんたちが手際よくベルトを止めていく。
腰の上を左右に渡し、その中心からV字型に肩の上へと繋がれたベルト。
しっかり締め上げてあるとはいえ、たったこれだけのもので本当に大丈夫なのだろうか。
「えー、ある統計によると、どんなに安全を考慮し、どんなに的確な運用をしても、27万回に1回の確率で、ありえない事故が起こるとされています。そろそろです。そろそろ順番が回ってくるころですねぇ。それじゃ、いってらっしゃーい!」
「いってらっしゃーい!」
カタッカタッカタッ。
係員の人たち全員で送り出してくれたジェットコースターは、不気味な機械音を響かせて上昇を始めた。
ああ、やっぱりやめればよかった。私の動悸は高度と同期するように高まっていく。
動悸が同期。
ダメだ、この程度のダジャレではどうにもならない。
カチッ。
え、え…止まった?
スルスルスルグォオオオオ。
フワァーっとお尻が浮き、太腿がゾクゾクっとした。
「ひゃうれれくふうぅん…」
普段、声を抑える訓練を積んでいる私なのに、思わずヘンな声が出てしまった。
ブワッと耳を撫でるすごい風圧、そしてガコンゲコンと容赦の無い酷い衝撃とグイィーンと押し付ける横Gに振り回され、私は目を開けられなかった。
「ぐうぅぅぅ…。」
怒涛の様に下っていく。いや、落ちていく。
「ぐあぁああ…。」
地獄の底に落ち切ったジェットコースターは、打ち上げロケットのような猛烈な上昇に転じた。捻じり上げるように回転しながら。
そして頂点に達して再び落下に転ずる瞬間。
フワリ。
天地逆さの無重力の刹那、私はガッと目を見開き、ノーパンのスカートの中に手を突っ込んで、涎を滴らせて待ちわびるように口を開いている洞窟へズブリと指を捻じ込んだ。
世界の全てが静止した。
あああぁぁぁ…。
昇天。
…ガァアアアア。
世界に光と音が戻った。酷い揺れも。