月-1
もうずいぶん恋人の顔を見ていない。声を聞くのもひと月ぶりだ。
『こっちは夜中だよ、月が出てる。1時を回ったところなんだ』
『こっちだって夜中よ、月も見える。同じ日本なんだもの。ばかね』
『そうか、そうだな』
『そうよ』
『髪を切ったよ』
『先月もそう言ってたわ』
『そうか、そうだな』
『そうよ』
ふふ、と小さく笑う声は、僕をどうしようもなくせつなくさせた。
『皐月』
『…ん?』
『何か我慢してることはない?』
『……』
数秒の沈黙が流れたあと、彼女は咳を切ったように嗚咽まじりに泣き出して言った。
『…近くに、いきたい』
『皐月、』
『私を、い、一番大事に、想ってるならっ…』
『さつき、』
『どうして淋しい思い、ばかり、させるの。。どうし、て?…ね、ぇ…っ』
『さつき…』
ゴトッ
『さつき?』
『さつき!!!』
僕は皐月の近くに行ってやりたい。
すぐに行くから、さつき。
『さつ、き…』
ゴトッ…