第29話 『ペナルティ授業、国語と音楽』-3
「〜〜……」
顔をあげ、視線で周囲に助けを乞うも、誰も全く頓着しない。 しばし視線を泳がせた少女は、諦めたのか、さっきよりきつく目を瞑る。 せめて自分だけは失敗するまいと、机を握る両手に力を籠める。 そんな少女の葛藤に構わず、
バシィッ、バシィッ、バシィッ……。
「……ッ!」
少女が歯を食いしばる。 何度でも、繰り返し連弾は始まるからだ。 教官が納得すれば一度で終わるということは、裏を返せば教官が納得するまで終わらない。 5人目、6人目まで進んでも、初めて尻バットを受ける生徒が悉くヘマをやらかす――尻をぶたれた衝撃で転んだり、悲鳴をあげたり、尻を中途半端に避けて連弾が途切れたり――せいで、その度連弾が中断だ。 連弾が30週目に入ったとき、既に1人目の少女は尻が赤黒く腫れあがり、白い地肌は見る影もなくなっていた。 なお、2人目も尻バットの数では引けを取らないものの、一打一打の重さが違うせいか、尻の有様は天と地だ。 トップバッターの50番は、スイングの速さにしろ重さにしろ、他の生徒より頭1つ抜けていた。 彼女がトップバッターを勤めることが、右端の少女にとって最大の不運といえるかもしれない。
「ひぐっ……ぐすっ……ひっく……」
いつしか右端の少女は泣いていた。 流石に声をあげて号泣することは耐えていたが、涙をポロポロ零し、しゃくりあげ続けている時点で目も当てられない。 何しろ叩かれる前から鼻を啜っているんだから、尻バット以外の音をたててはいけないルールに反している。
「ぐすっ……すんっ……いっく……」
「はぁ……すっかり興醒めだよ。 せっかく人間楽器が揃ったんだから、とっておきの音色を期待してたのに、君のせいでおじゃんじゃないか。 半鐘じゃあるまいし、全く」
「ぐすっ……っく……ひっく……」
音楽担当が肩をすくめるも、既に右端の少女には届かない。 ボロボロにされた尻は、既に激痛を通り越して感覚が麻痺している。 何度叩かれても後続がミスして戻ってくる尻バットの恐怖によって思考の流れも断たれている。
「うっうっ、うぅっ、うぐぅっ、ひっく、ひくっ……」
既に連弾を開始して数十週。 音楽担当が首を振る。 ここ数週は右端の少女を叩くだけで、少女が堪え性なく『あぐうっ!』やら『ひぃっ!』やら喚くため、2人目にすら進めない。 時計の針は終業3分前を指しており、切り上げるには潮時だった。
「仕方ありません。 最後に、私の合図で全員で尻バット10発ずつ叩きなさい。 連弾がムリでも連打くらいなら出来るでしょう。 残り10発なんだから、叩く方は全力で叩く。 尻バット側は、死ぬ気でジッとする。 当然声は全力我慢だ。 いきますよ」
シー……。 唇に指をあてて全員を鎮まらせる。 これで最後、という言葉に残った気力をかき集められたのだろうか、右端の少女も震えながら口を噤んで黙っている。
バッ。 音楽教官が両手を振り下ろした。 30数個並んだ尻に、同時にバットが炸裂する。
バシィッ、バシィッ、バシバシバシバシ――。
打ちつけた直後に振りかぶり、第2打、第3打が尻を叩く。 右端では酷薄な笑みを浮かべた絶世の美少女が、これ以上ないまでに腫れた尻目掛け、嬉々としてバットを振っていた。