07.真相-6
「でも、中学生の頃って、同性愛を馬鹿にしたり笑いの種にしたりする年頃ですよね」
「そう」智志君は身を乗り出し、訴えるような目を向けてきました。「それはある。だからみんながふざけ合いながら『おまえホモか?』なんて冗談で言い合ってるのがすごく嫌だった。授業でも教師が普通にそういうことを言って笑いを誘ってたしね。なんか、同性を好きになることは異常なことで、みんなの笑いものにされるんだな、って落ち込んだ時期はかなり長かった」
「あたしは個人的にそういうことは気にしない方かな……」
智志君は頷きながら言いました。「そう思ったから俺、マユミに頼んだんだ。君に打ち明けることを。マユミも君もLGBTに理解があるコだって俺は前から思ってた」
「だって、人を好きになるっていう気持ちはプライベートなことだし、それがどういうカタチだろうと他人がとやかく言うものじゃないもの」
「ほんとにその通りだね」智志君は何度も頷きました。
「だから落ち込んでた貴男を結果的に救ってくれた嶺士に、智志君自身がそんな気持ちを抱いたのも無理ないことだと思う」
「うん。実際そうだった……。だけどそんなこと嶺士本人に絶対言えるわけがない。へたをしたらやつにもホモだゲイだって馬鹿にされ、軽蔑されて絶交される。そうなったらまた同じ思いをしなきゃならない。いやそれ以上にショックを受けて、今度こそ再起不能になるだろうね……」
智志君はうつむきました。
「でも智志君は、嶺士にもいつかカミングアウトしたいって思ってたんでしょ?」
「そう……だね。昨日、ここを訪ねた時は決心してた。でもなんか感情が先走っちゃって、長いつき合いのあいつならそんな俺を解ってくれるはず、そして受け入れてくれるに違いない、って思ったら、二人で抱き合って、キスし合ってってどんどん妄想が広がっていったんだ」
智志君は自虐的な笑みを浮かべました。
「当然あいつにはそんなシュミなんてないんだろ?」
「ま、まあ……」あたしは言葉を濁しました。
「危ないところだったよ。ほんとに」
「あたしが代わりに伝えます。智志君の気持ちを。彼に」
智志君は顔を上げました。
「え? どうやって?」
あたしはその方法を思いついたわけではありませんでした。でも、目の前にいる、まるで子犬のような純粋な目をしたこの男性の気持ちを、彼の親友である嶺士に何とかして伝えなければならない、という強い決意をその時抱いていました。
「もういいよ。嶺士が俺の気持ちを知る必要はない。これは俺一人の問題だから……」
智志君の顔は寂しそうでした。熱が下がったとは言え、彼の嶺士への気持ちは、やはり友情プラスアルファのものだということはその表情から手に取るようにわかりました。
「とにかく任せて下さい」
あたしは笑って智志君の手を取りました。
智志君は切ない目をして小さくありがとうと言った後、あたしの手を離しました。
「こ、こんなことを言ったら、また君にとっても失礼なんだけど」
「はい」
「昨夜君が俺の相手をしてくれて、俺は女の子に目覚めた」智志君は慌てて付け加えました。「い、いや、君が好きになったから告白してるってわけじゃないよ」
「わかってます」
「女の子に対する拒絶感が消えた、ってこと。わかるだろ?」
「良かった。あたしの思惑通り」
あたしは笑ってカップを口に運びました。
「酔った勢いとは言え、あんなことしちゃって、ほんとに申し訳ない」
智志君は頭をテーブルに擦りつけました。
「ひょっとして、女の人とsexしたこと、今までなかったんですか?」
智志君はかっと赤くなって身を固くしました。