07.真相-5
中学二年生の時に、俺は里美という女の子を好きになった。そしてその秋にその彼女に告白した。里美には茜という仲の良い友だちがいて、実は二人とも俺のことを気にしていたことを後で知った。
俺に告白された里美は、親友茜の手前すぐには返事をしなかったが、その茜本人の後押しもあって俺とつき合うことを決心した。
里美と俺は遊園地に出掛けたり海を見に行ったりと普通に交際を続けていたが、三年生になった夏休み、デートの帰りに寄った里美の部屋で二人きりになった時、俺は彼女を抱きたくなり、迫った。緊張しながらもキスを済ませ、俺は里美のTシャツを脱がせた。彼女もその行為を受け入れてくれているような反応だったので、俺は調子に乗ってますます彼女に欲情していた。
下着姿でベッドに横になった里美に同じように下着姿の俺が挑もうとした時、彼女は俺に避妊具は準備しているのか、と訊いてきた。俺はその日、この部屋で里美とこういう状況になることなど想定外だったので、首を横に振った。すると、里美はいきなり泣き出し、今さらどうしていいか解らずにうろたえる俺を尻目に服を着直して、脱ぎ捨てていた俺の服を丸めて投げつけ、帰って! と叫んだ。
とにかく謝ろうと思った俺は明くる日、里美を訪ねたが、彼女は出掛けている、と玄関先でひどく不機嫌そうな母親に言われた。その次の日も、三日後も俺は彼女を訪ねたが、やっぱり里美は留守だった。もしかしたら俺とはもう顔を合わせたくなくて居留守を使っていたのかも知れない。
夏休みが終わり、二学期が始まって間もなく、学校の女子たちが俺に対してやけによそよそしい態度をとっていることに気づき始めた。里美はもう俺と目を合わせようともせず、あからさまに俺を避けるようになっていた。俺はいたたまれなくなって、水泳部で一番仲の良い慎二に相談した。
慎二が言いにくそうに俺に教えてくれたのは、女子の間で、俺が里美をレイプしようとして未遂に終わった、という噂が広がっている、ということだった。俺は愕然とした。しかも、その話を広めているのは茜だということも解り、俺は怒りに震えた。でも俺は広まってしまったその噂を否定して無実を証明する方法など思いつかなかった。
俺は藁にもすがる思いで慎二に力になってくれるように頼んだが、彼は、俺にどうしろと言うんだ? と返すばかりだった。その上「おまえ、実はホモなんだろ? それを隠したくて女に挑んだがうまくいかなかった、ってのが真相なんじゃね?」と言い放った。
俺はしばらく学校に行けなくなった。でも受験のこともあり、親にも心配を掛けたくなくて、もう誰にも心を開かないと自分に誓って、苦しい気持ちを抱いたまま学校に通い始めた。それから卒業までずっと、同級生の全てが敵に見えて、死にたいぐらいだった。
俺は自宅から遠く離れたすずかけ商業高校に進学し、寮に入って中学時代の同級生たちとは縁を切ることにした。その高校で水泳部に入部した日、俺は鶴田嶺士という同級生と出会い、すぐに打ち解け合って親友同士の間柄になった。重い気持ちを引きずっていた俺は嶺士の友情に支えられて、みるみる明るさを取り戻した。嶺士といるとこの上ないほどの幸福感を味わうことができた。そして中学時代とは別人のように自分らしい充実した高校生活を送ることができた。
「だから嶺士は俺の恩人なんだ」
智志君はぽつりと言って指で目元を拭いました。
「そんなことが……知らなかった」あたしは胸が締め付けられる思いでした。「辛かったね、智志君……」
「でも、俺が男にも興味を持つ人間だってことを慎二は何となく感じ取っていたんだろうね。あの時俺は自分の心の中を無理矢理こじ開けられて人目にさらされたような気がして絶句した」
あたしは彼の目を見つめて言いました。
「貴男がその、自分がバイだって気づいたのはいつですか?」
「中学時代にはうすうす勘づいてた。女の子のハダカにも人並みに昂奮できたけど、男の水着姿とかにも熱くなってたし」
「実際に好きになった男子とか、いたんですか?」
「抱き合いたいとかキスしたいとか思ったことはなかったかな。でもあいついいな、って思ったことは何度か。テレビや映画に出て来る男優に身体を熱くしたこともあるね」