或るデート-4
4.
「こんど、どこか静かな所でゆっくり逢いたいね」
芝浦海岸のデートで、紀子は芳雄のペニスを口に含んで、噴出した芳雄の愛液を飲み込んだ。
愛液に濡れた紀子の唇を吸いながら、芳雄が紀子の耳元に囁いた。
一週間が経った。
そこは、ハイウエイから一寸横にそれた、木立に囲まれたありふれたモーテルだった。
前面の窓を通して、東京下町のスカイラインを形作る高層ビルの窓明かりが、ガラス一面に星空のように広がる。
窓の両側には、ベージュ色の花柄カーテンが、左右の壁に沿って垂れ下がっている。
サイドテーブルのランプのシェードを通した淡いピンクの光が、わずかに化粧台の鏡に映えている。
エアコンのほの温かい空気が、紀子の髪を撫で、芳雄の鼻に女の香りを漂わせる。
「あたし、自信がないわ」
紀子が呟く。
「だって、ずいぶん長いことしてないし・・」
「大丈夫、僕に任せて〜」
紀子の言葉に、芳雄は紀子を引き寄せて胸に抱きしめた。
セックスに淡白な妻は、芳雄の求めをしばしば拒んだ。
毎日でも欲しい芳雄に較べて、妻は一週間で「もう?」と言って後ろを向いた。
「この前、吸ってくれて有難う、久しぶりに射精をして嬉しかったよ」
「とてもお元気だったわ、私、お相手出来るか心配だわ」
紀子は、芳雄が喜んでくれたのが嬉しかった。死んだ夫から、セックスをして有難うと言われたことはない。
小説の中でしか知らなかった驚きの経験で、オルガスムしてしまった。それは素晴らしい経験だった。世間に言う一線を越えたわけではないが、紀子は身も心も芳雄に奪われてしまった。
「紀子さん」
夜景に向って立ち尽くしている紀子を、芳雄が背後から抱きしめた。
両手は既に乳房を掴んでいる。
(いよいよだわ)
芳雄のペニスを咥え、愛液を飲み込んだ。芳雄との一体感、愛しさの想いが紀子の心にふつふつと湧いている。
夫のペニスを咥えたことも、精液を飲んだことも無かった。セックスをしても、夫を愛していると言う実感はなかった。愛していると言ったことも、聞いたことも無かった。
(私は、この人を愛し始めたのかしら?)