〈略奪の雨音〉-6
『オイ、こいつクロッチに“染み”つけてんぜえ?』
「ッ……!!!」
真夏が怒りをぶつける相手は一人や二人ではなかった。
緊縛を施したのだから欲望を真夏にも抱いているのは当然と言えたし、その一人の好奇心によって、真夏は自尊心を守る“戦い”の出鼻を挫かれてしまった。
『もしかして……奈々未とベロチューしただけで濡らしやがったとか?どんだけ〈ヤル気〉が漲ってんだよぉ?』
『やっぱりなあ?オマンコ同士くっつけあって、クチュクチュ擦りたくて堪らねえって面してるもんなあ?』
「ぐぎぎッ…む…ぎ〜〜〜ッ!!」
『この角度だと奈々未からも見えてるぜ?なあ、奈々未ぃ、真夏はオマエと「ヤリたい」ってさあ?』
いくら足をバタバタと動かしたところで、股布を隠すには至らない。
嘲り笑った顔や軽蔑した顔が次々と泣き顔に迫り、そして股間を覗いていく。
(な…何よ…ッ!?何よぉッ!!)
生まれて初めて感じた激情は、ただの一人も怯ませられないほどに弱々しいものだった。
目も眉もつり上がっている。
眉間に皺だって寄っている。
眼光だって鋭いはずなのに……それでも男達はヘラヘラと顔を崩しながら真夏を見ては、ゲラゲラと声を出して笑っている。
悔しい……。
自分には何の力も無い。
大好きなマンガのキャラクターのように、怒りに任せて縄を引き千切る力もなければ、殺気を放出して追い払う能力も無い。
(だ…誰か……ッ!)
自分には奈々未を助けられる力が無いと思い知らされた真夏は、この部屋には居ない〈誰か〉に助けを求めた。
求めたと言っても、それは単に〈願う〉だけなのだが……。
「と、盗撮して大勢で襲って…ッ!お…男のクセに卑怯じゃないのッ!さ、サイテーよッ!!貴方達はサイテーの男よッ!!」
真夏へのあまりな侮辱や言葉の暴力に、奈々未は思わず声を荒らげていた……。
あの時の真夏は真剣そのものだった。
呼吸は乱れ、声は震え……それは思春期の少女のような真っ直ぐさで、苦しくて切ない想いを告げてきた……。
だから奈々未は応えた。
最高の答で真夏と向き合い、彼女になると宣言した。
そこには同情も哀れみもなく、何の含みも好奇心も無い。
恋い焦がれた想い人との初めての口付けに気持ちが昂るのは可笑しな事ではないのだし、それが“現れた”としても、奈々未の心には軽蔑は生まれなかった。
何も間違ってない。
その確たる自信が奈々未にはある。
突然の襲撃に怖くて怯えた真夏は、身を呈してでも守らねばならぬ存在だった。
そこには男も女も無い。
何故なら真夏は大切な《彼女》なのだから……。