第4章 過信が生んだ落とし穴-5
いつもは優しい島田がこれ程まで怒る理由は理解出来る。自分のとった行動が組織理念から逸脱した行動であった自覚があるからだ。上司を、警察を裏切る行動だと今なら冷静に考えられるが、朱音は焦っていた。張り込みが不発に終わり、周りから冷ややかな言葉を浴びせられた朱音はそれを挽回しようと、自分の読みが正しかったんだと証明する為に周りが見えなくなっていたのだ。最後にキャバ嬢狩りの被害者になったであろう美弥妃が連れ去られたのは自分の責任かもしれないと思った瞬間、朱音の周りが見えなくなる悪い癖が出てしまう。何とか自分の手で彼女を救わなければと言う使命感にかられてしまう。
現場に戻った朱音はまず島田に再度謝罪した。
「その件は後だ。まずは犯人を追う事とこの部屋の物を洗いざらい調べる事が必要だ。立花、鑑識を呼べ。この部屋で殺人が行われた可能性があるからルミノール検査を行う必要がある。」
「分かりました。」
朱音は慌てて電話し鑑識を呼んだ。その後、島田に何故澤田謙也と小森龍彦を睨んだのか、今日張り込みを開始してから現在までの経緯を説明した。捜査も進み島田も少し落ち着いたようだ。先程のような叱責は消えていた。
「張り込みを続けたいなら、そう言えば良かったんだ。お前がどうしてもって言うなら俺だって一課長に掛け合う事ぐらいはしたよ。」
「すみませんでした。」
「第一お前、危ない目に遭ったんじゃないのか?」
朱音はボタンの取れたシャツの胸元をスッと狭めた。
「お前は優秀だ。それに女だからと言う考えは全くないが、力で男に敵わない場面はたくさんあるんだ。女1人での夜の繁華街の捜査は危険だ。認める訳にはいかない。」
「すみません、ご迷惑をお掛けしました。」
頭を下げる朱音に島田は、いつもならどんな話でも女だからと言った言葉を口にすると必ず突っかかってくる朱音が素直に話を聞いている事に、よほど怖い思いをしたのだろうと感じた。改めて県警本部にて咎められるであろうから、自分はこの辺で止めておこうと思った。
「話はここまでだ。戻って来たばかりで悪いが、このパソコンを県警本部に持ち帰り分析してくれ。あと保護していた女性らも県警本部に移動させたから聞き込みもしてくれ。」
「はい。分かりました。」
敬礼しパトカーに乗り込もうとした朱音を呼び止める島田。
「おい、立花!あと、着替えろ。」
「はい。」
朱音は深く頭を下げてからパトカーに乗り込み県警本部に戻って行ったのであった。