セーラー服の夕べ-1
翌朝八時に起床した遥香が一階へ下りていくと、キッチンにはすでに川島の姿があった。彼は前掛けみたいなエプロンを着けて、慣れた手つきでフライパンを振っていた。
「おはようございます」
礼儀正しく遥香のほうから声をかけた。
「おはよう」
調理の合間に川島が気さくに応じる。その表情に夕べの卑しさは微塵も感じられない。
「もうすぐ朝飯にするから、先に顔を洗っておいで」
「先生……」
「何だ?」
「あのう、トイレに行きたいんですけど……」
「うん?」
「ナプキンはどうしたらいいですか?」
寝癖の付いた髪を撫でながら遥香がたずねると、川島は二階のほうをちらりと見て、もう一度遥香に視線を戻した。どうやら円藤はまだ眠っているようだ。
「俺にはそういう趣味はないから、円藤先生に直接渡してくるといい」
「わかりました」
遥香はトイレで用を足すと、汚れた生理用品を下着から剥がし、新しい物と取り替えた。使用済みのナプキンはトイレットペーパーにくるんで持って行くことにした。
二階に上がり、自分用にあてがわれた部屋のとなりのドアをノックする。寝室が男女別になっているのは、川島の配慮によるものだ。
「円藤先生、起きてますか?」
ノックしても返事がなかったので、遥香は室内に呼びかけた。階下で風鈴が涼しげな音を鳴らしている。
それから間もなく、ドアの向こうからテニス部顧問の顔がのぞいた。彼は緊張感のない表情で女子部員を出迎えた。
「おはよう。どうかしたのか?」
「これ、円藤先生に頼まれていた物です」
遥香は手の中の物を彼に差し出した。でも話が通じないのか、寝ぼけている円藤は腕組みをするか首をかしげるばかりで、なかなか受け取ってくれない。
「んもう、知らない」
埒が明かないので遥香は円藤の手にナプキンを握らせ、足早に階段を下りていく。あの後の円藤の行動を想像すると、せっかくの朝食の味が台無しになりそうだった。