セーラー服の夕べ-2
洗面所で手を洗った遥香はすぐさま食卓に着き、家事をこなす川島と他愛もない会話を交わす。
ほどなくして四人がテーブルに勢揃いし、少し遅めの朝食で体内時計を目覚めさせると、昨日と同様に思い思いの場所へと出掛けて行く。
受験生の遥香は今日も川島と二人きりで試験勉強に臨んだのだが、心なしか、普段の授業よりも脳が冴えているのはなぜだろう。昨夜の出来事がまだ吹っ切れていないので、雑念がないと言えば嘘になる。しかし教材の内容がどんどん吸収されていく実感は確かにあった。
「さすがは優等生の麻生だ。相変わらず飲み込みが早いな」
熱い語気で川島から褒められ、遥香はまんざらでもない顔をした。この人は生徒のことを本気で愛しているのかも、みたいな勘違いまでしてしまいそうになる。
そういえば川島や円藤や櫻井の私生活について、遥香は何の情報も持っていない。つまり結婚しているのか独身なのかもわからないまま、この三年間を無関心に終えようとしているのだ。
小学生の頃にはあたりまえに持っていた無邪気な心を、いつの間にかどこかに置き忘れてきたのか。それが大人になるということなのか。
セックスをすれば体は大人になるかもしれないけれど、それと引き換えに失うものがあるとすれば、こんなに残酷なことはない。
だけども遥香は大人になりたかった。きちんと自立した女性になれるよう、難関と呼ばれる大学も目指している。
ようするに女性が輝ける社会を夢見ているだけであって、大きな会社に就職したいという野望があるわけではない。男女が平等に暮らせる世の中になればいいな、と遥香なりに思うところがあるのだ。
連れ去り、痴漢、盗撮、強姦、ストーカー、それらの脅威から隔離された環境でのびのびと生活するのが理想だった。だからこんなところでくよくよ悩んでいる場合ではない。
よし、と愛らしい唇を結んで決意を新たにした遥香は、まずは目の前にある問題に取り組もうと顔を上げた。
その日の夕方、遥香がリビングで携帯電話をいじっていると、荷物をどっさり抱えた川島がやって来て、「麻生、そろそろあっちの勉強を始めないか?」と息のかかる距離でささやきかけてきた。
遥香は直感的に、昨夜の続きをやるつもりなのだろうと思った。
「でも、まだ外が明るいし……」
「教師に向かって意見するのか?」
「いいえ。せめて夜まで待ってください」
「待てないから困ってるんだよ」
と、川島が遥香の耳をでろんと舐める。
「きゃっ」
遥香は首をすぼめてやり過ごそうとしたが、今度は胸を触られた。これまでの度重なる性交渉で、遥香の神経はかなり敏感になっている。あっという間に体中が火照り、ショートパンツで装った下半身から力が抜けていく。
「えっ、ちょっと、待って……」
遥香は川島によってその場に立たされ、さらにショートパンツを下ろされると、下着に包まれた股間への愛撫を許してしまう。物差しで胸のサイズを測ってきたりもしたが、校門前で服装チェックを受けるのとはわけが違う。