憂鬱な果実-4
家族と食卓を囲み、その後にシャワーを浴びてリビングに戻ると、父親が野球のナイター中継を視ながらビールを飲んでいた。とくに視たい番組もない遥香はそのまま二階に上がろうとした。
すると普段は口数の少ない父親が、「遥香、受験勉強のほうはどうなんだ?」と赤い顔をして話しかけてきた。怒っているのではなく、どうやら酒に酔っているだけのようだ。
「別に」
反抗期の遥香は声を尖らせた。
「別にってことはないだろう。良い大学に行きたいんなら、まずは良い高校に行かなきゃならないんだ。わかってるのか?」
「わかってる」
「いいや、何もわかってない」
父親の決めつけるような言い方に、遥香は呆れて言い返す気にもならない。
わかってないのはそっちでしょ、という文句を飲み込み、遥香はさっさと二階の自室に引き上げた。
ドアを閉め、そのままベッドで横になる。遥香にとって、ここが唯一落ち着ける場所なのだ。
今日一日の出来事を振り返ってみると、学校でも家でもあまり笑った記憶がない。
どうか明日は笑顔の多い一日になりますように──ささやかに祈りながら寝返りを打ち、微睡(まどろ)みがおとずれるのを待つ。
目を閉じると、瞼の裏にテニス部顧問の円藤の顔が浮かんだ。もっと正確に言えば、円藤の股間の膨らみを遥香は思い出していた。
したがって顔の良し悪しなんかはどうでもいいのだ。彼のズボンの中身を想像するだけで下腹部が熱くなり、女性器の隙間がじんわりと湿ってくる。遥香はとくに早熟な女の子なので、下着の汚れにも気をつける必要があった。
生理や排卵についても、とにかくわからないことが多く、体を清潔にしなければいけないと思う一方で、知らず知らずのうちに陰部を観察している自分がいた。色、形、分泌物、それらの情報を手に入れるついでに遥香は一人遊びをおぼえた。どこをどんなふうに触れば快感を得られるのか、またオルガスムスとはどんな感覚なのか、知れば知るほど遥香は一人遊びにのめり込んでいった。
布団の中の熱気に悶々としているのにもとうとう嫌気が差し、遥香はその夜、オナニーをしてから就寝した。