ACT 2-1
「……ああ、あいつセリナっていって、けっこうヤリマンらしいすよ。おれは自分がドMだからあいつには興味なくて手出してないすけど」
「それどういう意味だよ」
「ああ見えてあいつ、Mらしいんすよ。おれもMだからその時点でムリ」
おれはもう、それを聞いて涎を垂らしそうになった。
実は以前このクラブでセリナを何度かナンパして失敗していたのだ。
「まじすか? あー……、あいつ自分にメリットのある男としか絶対ハメないらしいから。
でも今回は違いますよ。断ったらクビなんだから。東京のイベも出れなくなるし」
「……本当にいいののか?」
「おれが一言、レギュラーになるかわりにYさんの女になれって言えばすぐOKすよ」
あまりにも平然と言うKに、思わず言葉を失った。
セリナは他のダンサーの女の子たちとくらべて頭ひとつぶんほど背が高く、170cmちかい長身だった。どこか韓国系を思わせる切れ長の瞳が印象的で野性的な魅力があり、日本人離れした身体つきをしていた。草食系男子にはむしろ「怖い」と敬遠されそうだが、気の強い女王様タイプの女が大好きなおれにはもうたまらなかった。
黒髪の肩までのセミロングにHIPHOPダンサーらしい小麦色に日焼けした肌。
バストはちいさめだがツンと上をむいて膨らんでおり、ブーツが似合う長い脚とくびれた腰、大きめのヒップは思わずふるいつきたくなるほどの悩ましさだった。
Kに聞いたところ、セリナはああ見えてまだ22歳だという。
思い出せるだけでもおれは過去、このクラブでセリナに3度は声をかけたと思う。
しかしセリナはまるでそこに誰もいないかのようにおれを完全に無視した。
160cm足らずの、イケメンでもないおれは眼中にないというように。
ゆっくりと髪をかきあげながら悠然と立ち去っていくセリナの後姿を眺めながら、何度レイプしたいと思ったことか……。
Kによれば、セリナは誰にたいしてもナンパには応じないらしい。
そのかわり自分のメリットになる相手にはすぐに応じるのだという。
(セリナ……今夜こそおれの女にしてやる……気が狂うほどかわいがってやるからな……)
汗をとびちらせて踊るセリナの肢体をじっとりと粘りつくような視線で犯しながら、おれは生唾を飲み込んでいた。
「セリナを呼んでくるんでここにいてくださいよ。今日はブッキングだけで回さないからもう少ししたらおれ、帰るんで。あいつがゴチャゴチャ言ったらすぐおれに連絡ください。たぶんそれはないと思いますけどね」
ショウが終わると、KはあっさりとVIPルームを出て行った。
おれは現実感がもてないまま、煙草に火をつけた。煙草をもつ手が、興奮でかすかにふるえていた。