第14話 『前哨戦』-3
「……」
薄々気づいていたが、もはや私にはどうにもならない。 今すべきなのは、ケーブル役に相応しい少女をどのように選ぶか、公正公平な選考方法を思索することだ。
放送室を開け、図書委員に予備ケーブルの束を持たせて体育館に戻る。 既に1組、2組はコンテストが始まっている。
さて、予備ケーブル。 一種の『延長コード』といえる。
断線したケーブルを仲立ちし、応急措置することが主な役目だ。 人体は――血液やリンパ液は――電流を通すため、熟練したDランク備品であれば、直接舌と肛門で断線した両端を噛み、一切の道具なくして電流に耐え、『ケーブル』を勤めるケースがある。 が、そんな上級者がそうそういるわけはなく。 ヒトの体は交流ならばいざ知らず、直流電流に耐えるようには出来ていない。 現代の牝が、細胞膜レベルで旧世紀より耐性が強化されたといえど、出来ないものは出来やしない。 ゆえにコーティングした『特殊ケーブル』を口から呑み、一端を口から、もう一端を肛門から出し、それぞれを断線に繋ぐことで、Dランクの一般少女は『ケーブル』役を務めている。
『このケーブルを1人1本、いますぐ呑んで肛門から出してもらいます』
と告げた時、ほぼ全員が、ケーブルの一端を自分の肛門に宛がった。 私が『呑む』といった内容を『肛門に挿入する』と受け取ったんだろう。 私が、ケホン、咳払いをして、
「コーティングケーブルを口に入れ、喉、胃、腸を通して肛門まで伸ばしなさい。 断線した片方を、ケーブルの口側に繋ぎ、もう一方を肛門側に繋ぐことになります」
と言い直した反応は、ポカン、信じられないといった顔つきで、揃って視線が泳いでいた。
「……はやくなさい」
促したところで誰も動き出す気配がない。 全く、この程度でショックを受けているとすれば、どれだけ甘いカリキュラムを受けてきたんだろうか。 消化管の異物貫通は、確かにカリキュラム的に酷な部類に入る。 だからといって、所詮は一種の『胃カメラ』であり、医療行為に使用する程度なのだから、特に珍しいわけじゃない。 現に私は、自分のクラスに対して少なくとも20回以上、異物を喉から肛門まで通させている。
「……ケーブル表面は、粘膜と反応して潤滑するようにコーティングされています。 また、両端に小型モーターが内臓されていて、振動しながら自動で奥に進んでくれる。 一度呑んでしまえば、後はジッと我慢するだけで勝手に貫通してくれるんだから、こんな楽な道具はありません」
いつまでも動きがないため、助け舟を出してみた。 どう考えても『貫通』させてみないことには生徒の適性が測れない。 すると何人かの生徒がおっかなびっくりケーブルを咥え、残り多数が先陣に続く。
「ふう……それでは制限時間5分で貫通できるかどうか、これをコンテストとしましょう。 宜しいか」
「「はいっっ!!」」
相変わらず、過剰に大きな返事だった。
「用意、始め」
「うぇっ……!」「っぷ……っく、えぐっ」「おぐっ、ぶぐっ、おぇ……!」
声にならない嗚咽を漏らしながら、ケーブルが喉に吸い込まれてゆく。 みながえずきはするものの、流石にすぐに吐く生徒はいない。 ジッとしていれば、勝手に消化管を進んでくれると説明してあるし、しばし我慢すれば自分の体で実感できる。 いつまでも身悶えて身体をクネクネさせているのは、理解が悪いか、或はよっぽど性根が座っていない生徒だけだ。
「むぶっ……ぎ、えうぅ……うぇぇっ……!」「ぶっ、ぶふゅっ、ぶひぃっ」
いつまでもえずき、白目を剥いて豚のように鳴く生徒は、とりあえず私の中でコンテストの審査対象から除外した。 そうこうするうちに最初に咥えた数名が、お腹を不自然に隆起させる。 異物による蠕動、そして異物自体の動きがお腹の皮越しに見て取れる。 モジモジと尻を振りだすに至り、ケーブル先端が大腸を突破した頃合いだ。 1人が、
「ふむぅ……ん!」
ひときわ鼻息を荒げると、ぽこり、開閉する菊門からケーブルが姿を現した。
「んんんっ!」「……くはっ」「ふっん……!」
次々に貫通を終える生徒たち。 無言で排泄するものもいれば、息も絶え絶えに喘ぐものもいる。 結局制限時間内に最後まで貫通できたものは10名だった。 10名の生徒、みなが比較的3組の中では優秀な部類だ。 それぞれの係、役職、部活、出場種目、クラスカーストにおける位置づけまで、全員のデータは把握している。