第14話 『前哨戦』-2
「既に、みなさんは研修を通じ、Dランク認定を獲得しましたねぇ。 公式の場でDランクとして、人間備品、人間道具として振舞う資格を得ているんです。 さっそく、研修で培った姿勢、思考を発揮し、道具になる心構えを見せてくださいな」
1組担任の口からは『体育祭』という単語は出なかった。 ふと思う。 『選ばれた生徒は体育祭に出ない可能性がある』と示唆してしまえば、体育祭に出場したい生徒が手を抜くかもしれない。 勘が良い生徒にも素直に力を発揮させるため、敢えて黙っていたと観るのは穿ちすぎだろうか。
「コンテストで選抜されるということは、どのような機会にせよ名誉なことです。 ゆえに、クラスの事情を除いて公平性を担保するため、担任以外が判定した方が自然でしょう。 選抜方法はお任せしますから、1組のコンテストは3組担任で、2組は私が、3組は2組担任、2号さん、お願いできますか」
「……」
私は即答できなかった。 生徒がいる前で水を向けられてしまうと、どうしても『NO』とは言い辛い。 主任が言うことでもあるし、理屈はそれなりに通っている。 ただ、私としては、なるべく主任には2組に関わって欲しくなかった。
1組担任の主任は、自分のクラスが1位になることに対して格別な執着がある。 其のせいだろう、実力で1組に並んでいる2組に対して風当りが強い。 1学期からその気があって、1学期中間考査や寮祭でも顕著だった(と私は思っている)。
なることなら2組の人間椅子コンテストは3組担任に、1組を私にさせて貰った方が無難なような……いや、3組と1組は担任同士気脈を通じているだろうから、どちらにしても同じかも知れない。 そもそも1、3組が結託して2組の足を引っ張るなら、それを奇貨としてクラスが成長する糧にする方が、発想としては健全かも――。
などと考えているうちに、
「了解しました。 では、1組、ステージ上に登りなさい。 得点板用の『枠』は体育倉庫に仕舞ってあるから、体育委員と委員長、2人ですぐに取りに行って」
3組担任が動いてしまった。 肝心なところで決断が鈍い……私の悪い癖だと思う。 もう今更どうにも仕様がない。
「……了解しました。 3組さんは、グラウンド側にしましょうか、壁際に一列に並んで待機。 図書委員さん、一緒に放送室にケーブルを取りに行きましょう」
務めて平静に声をかけると、
「はいぃぃっ!」
図書委員が小走りに寄ってくる。 必要以上に大きな返事、場にそぐわない焦った行動、どちらも反応として過剰気味だ。 いい加減、行動には相応しい程度があると分かって良さそうなのに、3組は何もかもが大袈裟に偏るきらいがある。
放送室へ向かう背後で、
「一度しかいいませんからね。 そのつもりでよく聞きなさい」
1組担任と、
「「はいっ」」
ピタリ揃って、私ごのみに抑揚が効いた返事がした。 2組の生徒たちだ。
「その場で第5姿勢(マングリ返し)をとりなさい。 出席番号順に、私が腰を下ろしますからね。 椅子として相応しい態度、姿勢、対応を心がけましょう。 貴方たちを椅子として使用してくださる方々は、学園関係者とは限りませんよ。 外部の方に座っていただく以上、学園生として無様な醜態は許しません。 コンテストの段階から意識を高く、覚悟をもって望みましょうねぇ。 椅子の恥はクラスの恥、クラスの恥は学年の恥、学年の恥は学園の恥……自分1人に収まらない大きな恥に繋がること、肝に銘じなさい」
「「はいっ」」
2組生徒は元気よく、しっかり応えていたが、何ということはない、体よく1組担任にのせられている。 ここに至って、私には1組担任の背後にある思惑が凡そ読めていた。 露骨にハードルを上げてしまえば、万が一『椅子になるとマズイのでは』と勘が働いたとしても、手を抜いたりは出来ないだろう。 最も優秀な2組の生徒を選び、合法的に体育祭クラス競技から排除するつもりだ。