第12話 『生徒会、風紀委員』-2
「とてもいいポーズと思います。 独創性も含め、感心しました」
「……ありがとう……ござい……ますッ」
A10番が姿勢を解きました。 ただ、満足そうにこちらを見ている彼女には悪いですが、
「とはいえ、今回は昨年に倣った『5』で通しましょう」
「……えっ?」
「理由はいくつかありますが、敢えて述べません。 これは私からの指示です。 昨年通りの数字姿勢を、各クラス風紀委員に貴方から指導してください」
『指示』という言葉を出せば、生徒は教員に従う他ありません。 学園の上下関係が絶対なことは、風紀委員長も良くご存じです。
「はいっ、了解しました。 教官のご指導に適うべく、委員連中の躾はお任せください」
問い返すこともなく、未練がましい素振もみせません。 きっぱりした返事は流石です。
「ところで人数なのですが、6人では得点板に不足な場合が考えられます。 もしも3組のうち1つの得点が『3桁』になった場合、如何致しましょう」
「……うん? えーと、どういうことかしら。 もう一度聞かせてくれますか」
「ですから、今回の体育祭における総合得点配分だと、仮に1組が二分の一の団体種目で1位を取り、リレー種目で1、2位を独占した場合、得点が3桁に達します」
「あー……そういうこと……」
「はい。 現在の得点板要員は、各クラスの得点が2桁に収まることが前提です。 もしそうならない場合のことも、責任者として考えておいた方がよいかと思いまして、ご指示をお聞かせいただきたいのですが」
「……なるほどねぇ」
予想外の質問でした。 確かに1つのクラスが全種目1位をとり、リレーでも全て上位を独占すれば、100点を超えることはあり得ます。 そうすれば『100の位』の数字を担当する別の生徒が、得点板に必要になります。 確かに、A10番がいうことは理屈ですね。
「ちなみに、貴方、どこかのクラスが100点を超える確率、計算してみました?」
「はいっ。 凡そですが、12万分の1になります」
即答でした。
「それは特定の1クラスが100点を超える確率ですね。 3クラスあるんですから、来週の体育祭で得点板を増やさなくちゃいけない確率は40216分の1です」
「あ……た、確かに仰るとおりです。 失礼しました……」
「構いません。 個人的には無視していい数字とも思いますが、万全を期したいという貴方の姿勢の方が理に適っています。 その時は、そうですね、どうせ『1』を体現するだけですから、生徒会長にやらせましょう。 当日は応援団長と、後は来賓相手にお喋りするだけです。 得点が最速で3桁になるとしてもプログラムの最終競技ですから、少しくらい貴方を手伝う余裕は有るはずです」
私としては、そんな可能性が低い事態の対策なんてしょうがないと思うし、アドリブでいいじゃないと思いますが……感じ方は人それぞれです。
「はいっ」
「当日そうなる気配があれば、私から会長に頼んでおきます。 貴方は心配せず、正確な得点掲示を続けてください」
「はいっ。 よろしくお願いしますッ」
「構いませんよ。 ええと、これが2つ目の質問ですか?」
「いえ、得点に関する項目なので、1つ目に入ります」
「そう……じゃあ2つ目の質問にいきましょう。 どうぞ」
内心げんなりしてしまうのは抑えられませんが、勤めて顔には出さずに促します。
「はいっ。 審判用具の使用方法ですが――」
彼女だって7時間みっちり学園のカリキュラムでしごかれているというのに、放課後まで元気なのは、やっぱり若さゆえでしょうか。 アラサー、いえ、アラフォーに片脚を入れた身としては、A10番の声の張り、加えて肌の艶が眩しく感じられます。
……。
『号砲ピストルは、ピストルの撃鉄を直接膣圧で倒して撃つ』『ゴールテープは逆立ちした膣にはさみ、2人がかりでゴールに張る』『棒倒し・大玉など地面につくことで勝負が決する道具には事前に振動センサーをセットする。 地面に触れれば電波を発し、審判の風紀委員が膣に収めたコンデンサが放電するようにしておく』『校旗・国旗は風紀委員が水平開脚した足の指でつまんで広げ、そのままの姿勢を保ち、腕力のみでポールに登って掲揚する』『応援團旗は、対抗戦ではないため掲揚を見合わせる』等々、1つ1つ審判方法を尋ねてくるものですから、時間がいくらあっても足りません。
風紀委員長とのやりとりは、結局1時間を超えました。 ホウレンソウを大切にし、自分の裁量に溺れることなく指導を乞う。 真面目なことはいいことです。 決して悪いことじゃないんです。
良い事には間違いないんですよねぇ……ただ、何事も中庸が大事ということも、彼女が良い事と等しく真実なわけです。 彼女と話すたびに痛感する今日この頃です。