第10話『学園歌斉唱』-1
第10話 『学園歌斉唱』
第2グラウンド。 正面に応援團長が陣取り、背後に団員がズラリと並ぶ。 グラウンド脇には、マーチング用に持ち運べるサイズの楽器を備えた吹奏楽部が勢ぞろいする。 と、團長の『学園歌、斉ッ唱ぉーッ!』の号令一下、吹奏楽部が演奏を始め、団員が『エール姿勢』になって正面に股間を全呈した。
パララッパ、パララッパ、パパパーン、パーン、パァーン……。
寸分違わず脚の開き具合が揃ったオマンコを背に、團長が股間で指揮をとる。 両腕を背中に組み、ピタリ水平に広げた股座を広げ、膝と踝をどちらも直角に曲げた体勢で、
クイッ、クイッ、ピクン、ピクン。
恥骨と恥丘だけを器用に前後に揺すって、股間の付根だけで拍子をとる。 股間以外は角ばって静止しているため、膣だけが別の生き物のように見え、まるで膣が音楽を奏でているかのような錯覚すら覚える。
「……いつみても独特な光景だこと」
「演舞のことをおっしゃってるんでしたら、お褒めの言葉と受け取らせていただきます」
「あら」
いつの間にか、傍には私より一回り小柄な女性がいて、團長の動きを眺めていた。
「8号教官。 いつからこちらに?」
「ついさっきです。 新人の練習を確認していて、つい開始に間に合いませんでした。 すいません、せっかく吹奏楽部さんと合同練習だっていうのに、まだ新人が躾きれてなくて……不作法もあろうと思い、参加は見合わさせています。 今日の所は個人練習をさせて、応援合戦は本番で披露する、ということでお願いできますでしょうか。 こちらの都合ばかりで申し訳ありません」
軽く、けれど丁寧に頭をさげる8号。 生徒相手だとざっくばらんな8号だが、私にたいしては辞宜折り目正しい態度だ。 数少ない年下の教員なので、当然といえば当然といえる。
「問題ありません。 例年通り、最後には仕上げてくれるんでしょう? うちの15番も応援練習が始まって、すっかり顔つきが引き締まりました。 授業共々お手数おかけしますが、どうぞよろしくお願いします」
こちらも軽く会釈を返した。 概ね本心から出た言葉だ。 8号教官の体育授業、私は効果的だと思っているし、生徒の評判も悪くない。 単に授業をこなす以上の感情を込めてくれているものと、私は勝手に信用している。
「たしかに15番の表情、2学期に入って大分変りましたね。 ただ、応援団がどうこうというより、体育委員に指名してもらえた責任がようやく分かってきた……っていうのも大きい気がします。 どんな体育委員にしても、この時期になると大変ですもの」
「全く。 能力が低い場合は特にそう……身体能力は勿論だけど、全体的に鈍いコには荷が重いでしょうね、15番みたいに」
深々と頷く私の隣で、クスリ、8号が苦笑した。
「能力が低いって……分かってるじゃないですか。 なら、なんで彼女を体育委員に指名したんですか? 9番か、29番らへんにしといた方が、クラス経営的にも楽でしょうに。 体操だってようやく一度も叱られずに通せるようになったレベルなんですよ、15番は」
私が吹奏楽部顧問で、あちらが応援団顧問という以上に、どちらもCグループ2組の担任と副担任だ。 或る程度気心は知れているがゆえに、8号は時たま突っ込んだ質問をしてくる。
「もしかして人選間違えちゃった可能性は……なきにしもあらず、ですかね」
「わたしなら一番体育委員になって欲しくないタイプですよ」
「……これまた手厳しいことで」
「何か理由があるんでしたら教えてください。 わたしが気づいてないだけで、彼女にも体育委員の適性があって、それに気づいてらっしゃるんですよね?」
「えぇ? さあ……どうなんでしょう」
「忍耐強いわけでもなし、運動が好きなわけでもなし……うーん、改めて考えてみても、さっぱり心当たりはないなぁ」
「ふふっ。 まあいいじゃないですか。 ソツなくこなしてくれさえすれば」
「いやいや、全然ソツ有りだから、こうやって話してるんですよ。 うちの団員だって彼女にはやられっぱなしなんですから、実際」
「ジッとしてるだけなら大丈夫なんだけど、自分から動くとなるとヘマが多いもんねぇ、彼女。 結局勘が悪いと全てが後手に回っちゃって」
「そう。 そうなんですよね、旗とかポージングは出来ても、腕も腰も振りが全然甘くって……って、分かってるなら尚更選考理由が聞きたいですよ。 何で15番を体育委員にしたんです?」
とつこうつ話すうちに、顔と顔の距離が近くなる。 8号教官の瞳は真剣だ。 きっと、応援練習もそうだけど、体育委員が使えないせいで、普段の体育授業でも七面倒くさい想いをしてるんだろう。
「そ、そんなことよりホラ、そろそろ演奏が終わりますよ」
15番を体育委員にした理由が『15番に向いてなさそうな役割だから』なんて、とてもじゃないが本当の所は教えられない。
パパーパー、パパーパー、パパァン……。
と、伴奏が次第に小さくなる。 膣をクイックイッ、捻っていた團長が静止して、校歌演奏は一区切りついた。