「誰?」-1
「こっくりさんこっくりさん……」
教室は昼間の喧騒を忘れ、赤く黄昏れている。
「香奈美ちゃんと百合ちゃんを殺したのは誰?」
もう日も落ちようというのに、互いの人差し指の先にある十円玉をじっと見つめ続ける二人の女生徒。
数秒後か、それとも数分後の事か、鳥居に見立てた記号の上で静止していた十円玉がゆっくりと動き始めた。
事件は一週間前、学校の裏山で起こった。クラスメートの香奈美が、もの言わぬ屍となって発見された。
そしてその二日後、一番仲の良かった百合が、桜の木の下で何者かに撲殺されていたのだ。
警察の懸命な捜査にも関わらず、犯人は見つからなかった。
「ねえ、三井さん」
そう声を掛けられたのが今日の放課後。
「こっくりさん、やってみない?」
話し掛けてきたのは黒木さん。クラスでもあまり目立たない子だった。
「もしかしたらこの前の事件の犯人、分かるかもしれないよ」
普段はこっくりさんとか信じていなかったけど、もしかしたらって心の何処かで思っていたのかもしれない。だからこそ私は彼女の誘いに直ぐさま応じたのだろう。
道具は黒木さんが用意してくれた。十円玉一つとルーズリーフ一枚。
紙には鳥居に見立てた記号と五十音、はい、いいえ等が書かれていた。
教室にもう人はいない。
私達は鳥居の上に十円玉を置いて、その上に人差し指を乗せた。
「いい? 絶対に指を離しちゃダメだよ」
彼女の言葉に頷く。
何故かふざける気にはなれなかった。
「こっくりさん、いらっしゃいませ」
黒木さんがそう言った後しばしの沈黙が流れた。
「こっくりさん、いらっしゃいませ」
もう一度、黒木さんが言う。
次の瞬間、指に全く力を入れていないのに、十円玉が、まるで意思を持ったかのようにゆっくりと鳥居の周りを回りだした。
黒木さんの顔を見る。彼女の表情は真剣そのもので、彼女がこの銅貨を操っているようにはとても思えない。
「こっくりさん、いらっしゃいませ」
私は自然とその言葉を発していた。
十円玉は鳥居の真ん中で静止した。