「誰?」-2
「こっくりさん、明日の天気は晴れですか?」
黒木さんが尋ねる。
直後、十円玉が移動を開始し、そして『はい』の上で止まった。
「こっくりさん、三井さんの好きな人は誰ですか?」
再び動きだした。
お、ざ、わの順に動く。表情に表れてしまっただろうか。かなりどきっとした。
「三井さんって小沢君のことが好きだったんだ」
さも興味なさげな口調で話し掛けてきた。尋ねたのは黒井さんなのに。
「ねえ、黒井さん」
さっきから、私が一番知りたい事についてなかなか尋ねようとしない。
「そろそろあの事、聞いてもいい?」
一番知りたい事。それは明日の天気でも、私の好きな人でもない。というか、私が好きな人は私が一番知っている。
私が知りたいのは百合ちゃんと香奈美ちゃんを殺した犯人。それだけだ。
「こっくりさんこっくりさん……香奈美ちゃんと百合ちゃんを殺したのは誰?」
黒木さんの了解を得ずに尋ねた。だけど彼女は何も言わない。そのまま沈黙が二人の間を支配した。
気がつけば、もう太陽が沈もうとしていた。遠くで烏の鳴き声が木霊している。黒木さんの顔を見た。俯いていた彼女の顔は赤い夕日のせいもあって、表情が上手く読み取れなかった。声を掛けようにも、その後何を言ったらいいのかが思いつかないので、掛け辛い。仕方ないので、自分の指先にある十円玉に意識を集中させた。
どれくらいの時間が経ったのか分からない。もしかしたらほんの数秒で動いたのかもしれないし、もしかしたら五分以上じっとしていたのかもしれない。
鳥居に見立てた記号の上に戻っていた十円玉が、再び動き出した。
わ行の一段目、た行の一段目、最後にさ行の四段目で動きを止めた。
わたし? こっくりさんが殺したというの?
それなら、彼女達は何故殺されなければいけなかったのだろう。
疑問が浮かび上がった時、誰も尋ねていないのにも関わらず、十円玉が勝手に移動を始めた。
『はなしちゃいけないっていったのにゆびをはなしたから』
はっと彼女の顔を見る。笑っていた。とても楽しそうに笑っていた。
私は逃げ出そうとした。
が、
「指を離しちゃダメだって……」
信じられないような力で右腕を掴まれた。
「指を離しちゃダメだって……言っただろうが」
次の瞬間、首を掴まれた。左手一本なのに、振り払う事ができない。それどころか、全くからだに力が入らない。