性と違-1
「おっはよ!ラクス。」
「こんばんわ、だと思うよぉ、時間的に。」
「いいの。業界人は何時でもおはようなんだから。」
「何の業界よぉ?」
「さあねー。」
駅前から伸びるメインストリートから丘の上の公園へと続くハロウィン会場は、日が暮れて間もないというのに既に大勢の人々でごった煮状態だった。
普段は渋滞の為クラクションが鳴りやまない6車線道路に、今は想い想いの仮装をした笑顔が溢れている。
私たちももちろん仮装している。と言っても、仮面被ってハネ背負ってるだけなんだけど。私は白い天使、ラクスは黒い悪魔。
「ねえ、エリス。その仮面なんだけどぉ。」
「イケてるっしょ?ふふふ。」
「イケてないと思うよぉ、それ。」
「え、なんで?」
「モノは悪くないよぉ、真っ白で清純な天使みたいなやつだから。」
「でしょ?」
「上下逆さだけどぉ。」
「う…。」
慌てて直した。
「ラ、ラクスはイケてるね、その悪魔みたいなの。」
「似合うでしょぉ?」
「うん、すごく。」
「本当に悪魔だったりして。」
あれ?今の声って妙に低くてなんだかラクスぽくな
「ねぇ、そろそろだよぉ、付き合わせてゴメンねぇ、お願いねぇ。」
「あ、あー、行こっか。」
「うん…。」
いつものラクスだ。気のせいか。
「おーい!」
丸海先輩とは程なく合流できた。
「迷子になりそうだね。手を繋ごうよ。」
「え…あ、はいぃ…。」
ラクスは真っ赤に頬を染めて手を差し出した。その手を丸海先輩がしっかりと握った。
「いいなあ。私にも手を繋いでくれる人が…って、あれれ?」
二人の姿が見あたらない。ソッコー迷子?それともわざと…。ならいいんだけど。どっちにしても、私は独りぼっち、か。
「リスちゃん!」
突然背後から声をかけられて文字通り飛び上がりそうになった。
「あ、丸海せんぱ…」
「居ないんだ、ラクスちゃんが。一緒じゃなかったのか?」
「いえ、私、先輩と二人だとばっかり。」
丸海先輩は眉間に皺を寄せ、唇を真一文字に結んで微かに肩を震わせている。こんなシリアスな彼を見たのは初めてだ。
「探しましょう。遠くへは行っていないはず。」
「うん、手分けして探そう。僕は駅の方へ、君は丘の方へ行ってくれないか。」
「はい!」
心細いだろうなあ、ラクス。泣いてなければいいけど。
それにしても…
「ぐはっ。」
人混みが…
「あふん…。」
これじゃまともに動けないじゃない。
「まいったな。ラクスも身動き取れないんじゃ…あっ!そうか。」
私はいちばん近くの交差点から西へ一本裏通りへと入った。そこにも人が溢れてはいたが、メインストリートに比べれば随分ましだ。
「もう少し北…ここだ!」
見覚えのある曲がり角をもう一本西に入った。曲がってすぐの所を北に。さらに西に曲がって少し南にもどると、その店はあった。
「ラクス!」
薄明りの中で人の動く気配がした。
「やっぱりここだったのね。」
そこは私たち二人が度々おとずれる雑貨店。お小遣いはけして多くはないから、しょっちゅう買うことは出来ないけれど、お気に入りの店だ。
「ラク…ス?」
近づくまでもなく、その細身の長身がラクスではないと知れた。
「やあ。」
「丸海先輩!どうしてここに?」
「どうしてって…ここに誘い出したのが僕だからだよ。」
「は?」
「リスちゃん、君はおっちょこちょいだ。」
「う、いきなりですか。」
「おっちょこちょいだがバカではない。だから、ここに辿り着くのは分かっていた。」
「?」
「もっとこっちにおいでよ。」
「あ、はい。」
私は彼のすぐ近くまで歩み寄った。
なんかスッキリしないけど、とりあえず丸海先輩の話を聞くしか…
「って言うか、ラクスを探さなきゃ!」
「いいさ、放っておけば。」
「な…なに言ってるんですか!あの子、すごく怖がってるかも…」
「かもね。」
「丸海先輩?なんか変ですよ。」
私は先輩の顔を覗き込んだ。
「むぐうっ?」
いきなり唇を奪われた。