パンダ・パンダ-1
「先生、パンダの幼稚園て知ってる?」
にこやかにそう云うのは、相川夕香。
僕の学校の生徒で、僕を好きだと云う奇特な女子高生だ。
「中国の保護センターでしょ?ニュースでやってた。子供のパンダはムクムクして可愛いよね」
僕がそう云うと、相川は満足気に頷いた。
「あたしもそう思う。ほら、あたしと先生って気が合うよ」
本気で云ってるのか、この子は。
「殆どの人が、そう思うだろうけど…」
相川は、ぶんぶんと首を横に振った。
「パンダを可愛いって思わない人、多分結構居るよ。酷い人って多いもん」
「それはそうかも知れないけど」
「ねえ、先生。これ知ってる?」
話を聞きもせず、相川は鞄からキャンディの瓶を取り出した。
最近は僕の居る準備室でお菓子を食べるのが常の相川。
困ったもんだけど、何故か追い返せない僕が居る。
「この緑のキャンディ」
異国のお菓子のようだった。見慣れないラベルの貼られた瓶から、相川は緑色の飴を一粒取り出す。
「ライム味なんだよ」
外国にはありましたか。ライムゼリーとかもあるもんな。
僕はとてもとても嬉しそうに飴を食べる相川を見て。
ちょっと可愛いと思ってしまって、とても困ったのだった。
パンダを可愛いと思う人間より、自分の受け持ちの女子高生を可愛いと思う人間の方が、ずっと少ないのだろうから。