終わらないハロウィンパーティー 〜狼は甘いものがお好き〜-8
「嬉しいな。柳染さんって、頭がよくて教授たちからの信頼も厚くて、頼りになって──俺とは種類の違う世界で生きているひとだと思っていたからさぁ。こうやって、ライブハウスで会えるなんてさ。なーんか、下の名前で呼びたくなっちゃう。親近感がわいて。紗奈(さな)ちゃん、だよね。そう呼んでもいいよね? 俺のことも『要』でいいから。それから──今日みたいな格好をしていることは、みんなには内緒にしとくからさ。ふだんの服装とは違いすぎるし、あんまり知られたくないんでしょ?」
カッと頬が熱くなる。
なんて調子のいい男なのかしら。でも──彼の言う通りだった。今日のことは誰にも知られたくない。
わたしは小さくうなずいて見せた。
「やった! そうだ。せっかくお近付きになれたわけだし、これからちょっと出ない? 俺、サポートだから最後までいなくていいんだ。近くによく行くお店があって。今日のライブについて、オーディエンス側からの意見を聞かせてよ」
──そう、ここで……ここで断っておけばよかったのに。
いつもとは違った『ハロウィンイベント』という空間と、小さな羞恥のこころがわたしを大胆にさせたのかもしれない。ライブの話を、このひととしてみたい──と、そう思ってしまった。
いつもとは違った、こんな格好を見られてしまったのだから、もう何も怖くない──そんな気持ちだったのかもしれない。それってヤケクソってやつでしょと言われれば、否定はできなかった……。
彼の『よく行くお店』は程よく混んでおり、着替えの入ったカバンをさげ、ロングコートを羽織っただけのわたしに目を向けるひとは、バーテンダーさん以外誰もいなかった。
促されるまま席につく。
カクテルを頼み、ドライフルーツをかじった。彼はよくしゃべった。わたしもバンドのこととなると、負けじとよくしゃべった。同じ学部に、こんなにも話の合うひとがいたなんて──と、そう思うほどに。
閉店時間が近づいてきても、話は一向に途切れる気配を見せなかった。
そしてわたしは、ひとり暮らしをしている彼の部屋にまでついていってしまった……。
「──紗奈ちゃんも飲む? 水」
「あ、えっと……大丈夫。あの……朝、だね……」