終わらないハロウィンパーティー 〜狼は甘いものがお好き〜-6
メインのバンド主催のハロウィンイベント。収容人数が三百五十人ほどのライブハウスでの開催だったため、文字通りチケット入手は争奪戦となった。
先日発売されたばかりのアルバムのインストゥルメンタルが流れ、歓声が上がった
***
重い扉の向こうでは、ライブ演奏を終えたバンドメンバーたちがオーディエンスを楽しませるためのパフォーマンスを繰り広げている。
わたしは飲み物が欲しくなり、ラウンジフロアに出てバーカウンターに向かっていた。ジンジャーエールがくちの中に刺激を与えながら落ちていく。
「あ、やっぱり。柳染(やなぎそめ)さんじゃん」
男のひとがひとり、わたしの隣に座るなりそう言った。
「えっ、どうしてわたしの名前──あれっ……」
さっきまでステージの上にいた──ギターの子だった。服は着替えているが、あの湖を思わせるような瞳を見てわかった。見覚えがある、と──そう思ったひとだ。
「俺のこと、わからない? 同じ学部なのになぁ」
まずい、と思った。
まさか、同じ大学に通うひとに見つかるなんて。よりによって、こんな格好をしているときに!
「俺、蘇芳 要(すおう かなめ)、大学ではあんまり絡むこともないし、俺のことがわからなくても仕方ないか。でも俺は柳染さんのこと、ちゃーんと知ってる。君、いつも美丘さんのフォローをしてるだろ?」
「え、ええ……まぁ……」
「ふだんと雰囲気が全然違うから、ギター持ってあそこに立ってたときは半信半疑だったんだけどね。やっぱり柳染さんだった。いつもはサラッとしたシャツにパンツスタイルとか、そういったシンプルな格好をしてるからさ、ちょっとびっくりしたけど、似合うね、そういう格好も」
「き……今日はハロウィンのイベントなんだし、ドレスコードが決まってるから……」
わたしはそう言って、自分の『仮装』を見下ろした。