第1話『体力トレーニング』-1
第1話『体力トレーニング』
昼休み。 私の残尿で味付けしたオートミールを最初に平らげたのは29番だ。 塩味しかついていないネバネバした昼ご飯でも、実に美味しそうに食べる不思議ちゃん。 まあ、寮も含めて学園じゃ碌な味付けがないから、塩味一本でもそれなりに美味しく感じられるのかも。 そういえば私も、学生時代ご飯を残したことは無かったっけ。
なんてぼんやり眺めていたら、食事を終えた29番が教壇に寄ってきた。
「あの、2号教官、質問があるんですけどいいですか?」
「……」
「あっあっ、えーとっ、そんな変な話じゃないんですけど。 あのっ、体育祭についてですっ」
「……」
「い、今だったらお時間ありますよね? そんなにお手間は取らせませんから」
ジー。 上目遣いにこっちを凝視。 そんな29番と私の様子をクラス全員が伺っている。
……うーん、いかにも軽いなぁ。 ここで答えたら、私まで軽くみられちゃうんだろうなぁ……だけど断る理由も思いつかないし、体育祭が間近になって、張り切ってる29番に水を差す気にもなれないし……ふう。
元気よく生活する生徒は、すべからく担任の願いといえる。 ただ、元気があろうとなかろうと、両端にいる生徒こそ担任の神経をささくれ立てる。 もっとも、学園的には元気がない生徒は切って捨てる方針だから、そうそう悩まされることもないけれど。
「……」
私が学園生徒だった頃は、怖くて担任に声なんてかけられなかったし、質問なんて考えられなかった。 私だってほぼ全員に補講をだして、かなり、少なくとも他の教員よりは生徒を厳しく躾けてるつもりなんだけど……あんまり怖がってくれてない気がする。 いや、違うか……29番が馴れ馴れしいだけかも知れない。 文化祭実行委員だった2番は私の前だと可哀想なくらい挙動不審だった、最初に補講へ連れて行った30番なんて未だに挨拶するだけで声が掠れるし、怖がられてないわけじゃない。 なまじ日誌係にしちゃったのが失敗だったかぁ……安易に質問する習慣がついちゃったんだろうな……そういうことにしておこう。
「……なにかしら」
ぶっきら棒な呟きで応じるのが、私にできる精一杯だ。
「あのですね、15番さんとお話ししてたんですけどね、昨日体育委員のミーティングがありまして、そこで体育祭のエントリーシートとルールブックを配られたそうなんですよっ」
バサッ。 脇に挟んだプリントの束を広げる29番。 元々は丁寧にホチキス留めしてあったようだが、よっぽど雑に扱ったのか、それとも1ページずつ念入りに読み込んだからか、芯が外れてページがバラバラになっている。
「……で?」
「で、ですね。 私なりに読み込んで、15番さんと一緒にこれがいいかなっていうメンバー表を作ってみたんですっ。 みんなにはもう見せて、オッケーは貰ってるんですけど……やっぱり教官のご意見がないと不安なんです。 8号教官には次の時間に見せようと思ってまして、その前に一度目を通していただけませんでしょうかっ」
グイッ。 プリントの束を手渡されてしまった。 さっき『時間は取らせない』って言ったくせに、チェックだなんて思いっきり面倒な作業を振る気まんまんじゃない。
「得点がつく種目だけメンバーを書きこんでます。 あのっ、私達勝ちたいんです。 もっと勝ちに行ける組み合わせがあれば、全然そっちに変えますから、遠慮なくおっしゃってください」
プリントを拡げて眺める脇から、耳元で29番が大きな声を出す。 私は聾じゃないってのに、全く騒がしいったらもう……。
Cグループ競技:
『大玉ころがし』全員。5人✕7組
『棒引き』全員。
『タイフーン』全員。4人✕9組(1組だけ3人)
個人競技:
『10人11脚』10人1組。 1番、11番、2番、4番、30番……
『ムカデ競争』5人1組。 5番、15番、14番、32番、9番
『障害物競走』5人でのリレー。12番、13番、2番、22番、8番
『借り物競走』2人。 20番、10番
『クラス対抗リレー』5人 29番、2番、22番、9番、24番
全グループ競技:
『玉入れ』 籠抑え役:7番、16番
『大縄跳び』 回し手:33番、34番