♠愛しのあの娘♠-10
「うーん、あたし今までいろんな男の子とエッチしてきたけど、本当に好きな人とはしたことなかったんだよね。本当に好きな男に抱かれると絶妙な色気が出てくるはずなんだってさ。だから、天野くんとエッチしなかったこと、今回の敗因はきっとそれだって言ってた」
そう言って、彼女はクスクス笑い出した。
「天童さんに言われた。次は、セクシーさを前面に出したテーマで行くから、今のうちに天野くんとたくさんセックスしときなさいって」
「は、はあ!?」
ボッと顔が熱くなる。
な、何言ってやがる、この女!!
「天童さん、来年こそ優勝狙うつもりだって。そのためにあたしは色気出しとけって言われたからさ。だから、天野くん、これからいっぱいエッチしようね」
「ふ、ふざけんな!」
「ええ? 天野くんはあたしとシたくないの?」
「い、や……それはシたいけど……」
「じゃあ決まりね、今日はこのまま天野くんのアパートにお泊まりするから、早速エッチしよ!」
「ちょ、ちょっと待て!! 気が早すぎだろ!」
俺はまだ、気持ちが通じ合っただけで充分幸せだっていうのに!
立ち止まる俺をよそに、松本はそのまま大通りへと走り出して、そのまま道路に向けて手を挙げていた。
「そうだ! このまま近くのラブホの方がすぐエッチできていいかも! 天童さんから謝礼ももらったし、これでタクシーに案内してもらおっ」
少し離れた所から、大きな声でこちらを見る。
「ま、待てって……」
あまりの展開の早さに、頭がついていけない。
こないだまで、俺を大っ嫌いで、家庭の事で泣いていて。
かと思えば、突然俺を好きになってくれたり、今すぐ身体の関係を始めようとしたり。
全く、愛しのあの娘は苦くて苦くてちょっぴり甘い、忙しい奴だ。
俺はそんな彼女を追いかける。
そして、彼女はイタズラっぽく舌を出してあっかんべーをする。
きっと、俺はこうやっていつでも松本を追いかけて行くんだろう。
でも、それも悪くない。
俺は小さくクスリと笑ってから、
「待てーっ!! 女の子がそんながっついてんじゃねー!!」
無邪気に笑っている彼女に向かって、走り出していた。
〜end〜