第八章 ユリネ-1
「満身創痍だな。」
祭壇の上で魔物、つまり僕の妻のユリネが天に見せつけている部分を覗き込んでいるオオカミが言った。
「自分で弄らされ、スイギュウに祭壇が揺れるほど猛烈に突きまくられ、ピーマンの嫉妬に激しく痛めつけられ、妹との愛撫合戦のあげくに裂けそうなほど広げられ自分でも広げ。そして今からどこに何をされると思う?この俺に。」
「何もするな。」
「今更か?」
「…もう、もういいだろ、十分に辱められたよ、この…魔物は。」
「ふん、俺が今更と言ったのはそういう意味じゃない。」
「じゃあ何だ。」
「こいつはな…」
「オオカミ、前へ。」
ふう、と一つ息をつき、オオカミは祭壇に上がった。
「四つん這いだ。」
魔物が応じるなり後ろから尻に一撃を捻じ込んだ。
「あうぅ…。」
ユリネが明らかに悦びを感じている声を漏らした。
「こいつは穏やかで恥ずかしがり屋な妻なんかじゃない。」
「なに!」
「ここに居る全員と既に関係をもっていたんだからな。」
「な…。」
ヤギが口を開いた。
「最初にオンナの悦びを教えてやったのは俺だ。」
「何を言ってるんですか、あなたにとっては娘の様なものじゃないですか!」
「そうだ。だから、今でも色々教えてやっている。」
「何を、何を…。」
「自分でするのはね、勝手に覚えたわよ。」
「ピーマン…。」
「部屋の戸を閉めてベッドの布団に潜り込んでモゾモゾ。でも、声を殺し切れてなくてバレバレ。見てて分からなかった?始めての指使いじゃなかったでしょ。」
「それは…。」
「それにね、ダンナのあんたが仕事で居ない時、もよおしたらどうすると思う?するしかないじゃない、自分で。この子、してるわよ、あなたと暮らすあの家で、あなたが居ない時に、一人で。」
あんなふうに…あんなふうに乱れ狂ってしているのか、僕と暮らすあの家で。
「それから。最初はちょっと体罰のつもりだったんだけど…この子、悦ぶようになっちゃったのよ。さっきみたいに痛めつけると。」
倒錯…。
「しょっちゅう、というわけではないが。」
スイギュウだ。
「自分では疼きをなだめきれないの、兄さんお願い、ってな。時々懇願される。」
血縁ではないとはいえ、ずっと一緒に暮らしてきた兄にそんなことを?
「お姉ちゃんとは子供のころから遊んでたよ、さっきみたいなことをして。たいていは私の勝ち。」
ゆいな…。
「分かったか。父代わりのヤギにオンナの悦びを教え込まれ、母代わりのピーマンに倒錯の快感を覚えさせられ、兄ともいえるスイギュウに壊れそうなほど突かせ、実の妹に愛撫され、お前の幼馴染の俺にまでこんなふうに尻を与える。」
「やめろ…。」
「何度も何度もだ。淫乱で、変態で、見境が無く、背徳。…そして不貞。とんだバケモノだよ、魔物さ。」
「やめてくれよ…。」
「代わる代わる与えられるカラダの悦びに恍惚の淵を彷徨い、ジーンと深く染み渡る快感を何の抵抗もなく貪る。」
「ああ、ああっ、あはぁあぁ…。」
オオカミの動きに合わせて尻を振り、片手で自分の乳房を鷲掴みにしている。血が滲みそうなくらい強く。
「コイツの正体なんて、みんなとっくに知ってたんだよ。だから。」
オオカミが僕を指さした。
「いいか、カボチャ。コイツが乱れ狂う自分の姿を見せようとした相手は俺たちじゃない。お前だ。」
「僕…。」
「魔物の仮面を被ることで、お前に対して被っていた穏やかで恥ずかしがり屋の妻の仮面が割れ落ちたんだよ。」
「魔物の仮面が”ユリナ”の仮面を割った…。」
僕はただ茫然とするしかなかった。
「うそだ…そんな…子じゃ…。ずっとずっと小さなころから一緒だった…のに…。」
出会ってから今日までのユリネとの思い出が浮かんでは弾け、闇の奥深くへと沈んでいった。
「だがな、ひとつだけ分からないことがある。そろそろ教えてくれないか。」
オオカミの腰がゆっくり大きく引かれた。
「浄化ぁ!」
ジュブルン。
「あはぁーーっ!」