第四章 指が-1
「魔物よ、自分のそこをどうしたい。」
魔物は言葉を発することが許されていない。だから、もし伝えたいことがあるなら、行動で示すことになる。
ユリネの左手が動き始め、美しいS字曲線を描く腹を這い、ジリ、ジリ、と下腹部へと向かった。
「バカな…。」
内気で恥ずかしがり屋のユリネが、何人もの男女に見られているこんな状況で、自分のそんな所へ手を延ばして何をするというのか。
唐突にユリネの手が止まった。
やっぱりそうだ。何もしたいはずがない、何もしない…と思っていた。
だが。
魔物は大きく足を開いたまま、膝を上げていった。
「な…。」
より深く。より奥まで。ユリネのそこは同席する者たちへと容赦なく晒されてしまった。
揺れるかがり火に照らされて複雑な形状の陰影が揺らめき、谷間から反射する光は不規則な変化を見せている。
「ふむ、さっきより良く見えるようになったな。」
僕の隣でオオカミが呟いた。
「見るな。」
「断る。」
ユリネの中指がついさっきまで陰毛で覆われていた部分に到達し、両足の間へと潜り込み、さらに進んでいった。
そして、目的地に近づくにつれ、彼女は少しずつ息を荒くしていった。
しない。するはずがない。自分で触りたくて興奮するような、そんな女じゃ…。
そう願う僕の想いとは裏腹に、彼女の左手の中指はついにその部分に触れた。
「ん…。」
切なげな吐息が黒い仮面の下から漏れた。
「どうしたんだ、ユリ…」
「名を呼ぶなと言ったぞ、カボチャ。」
ユリネの指は彷徨っている。この後、何をどうしたらいいのか分からない、というように。
「あら、じれったいわね。やり方教えてあげようかしら。」
「余計なことはしないで下さい、ピーマン。」
「そうね、余計よね。」
ユリネに視線を戻した。彼女の指がジュブ、と谷間に埋まった。そこから粘り気のある液体をたっぷりと指に絡ませた彼女は、再び敏感な先端に触れた。
「あ、ああ…。」
ユリネは黒い仮面を被った顔をのけぞらせ、悦びの声を漏らした。美しい髪が揺れた。
僕は歯を食いしばった。妻のこんな姿を他人に見られるなんて、耐えられない。
「なんて顔してるのよ。さっき言ったでしょ?疼きもしないのにあんなことにはならないのよ。」
「…カボチャの仮面の中が見えるんですか、ピーマン。」
そう言い返すのが精いっぱいだった。
「見えなくても分かるわ。」
躊躇い、戸惑いながらも、ユリネの粘りつく指は動き続けている。彼女は明らかに自分の意志でそこを弄り、快感を得ようとしている。
「こんなことを…見られながらするような子じゃない…。」
ピーマンがため息をついた。
「まだ分からないの?」
オオカミが彼女の後を引き継いだ。
「仮面を被ることで本当の姿が現れたのさ。」
「本当の?逆じゃないのか。別の者に変装しているんだぞ。」
その疑問にはピーマンが答えた。
「仮面を被ることで彼女は顔を消し、名を捨て、妻という属性を失くした剥き出しのオンナになった。そんな無防備な状態で老練なヤギに欲情の火を灯されたら?」
ピーマンとオオカミの視線の先に、徐々に迷いを捨てて快楽に身を投じていくユリネの姿があった。
「はぁ、ああっ、はぁあ…。」
ドロドロの粘り気を纏った彼女の左の中指は谷間や突起をグジュルニュル、と弄り、右の手のひらは胸や太腿の内側や下腹部などを這い回っている。
「うぅ…んはぁ、ああっ!」
僕は、妻が自分で自分の体から快感を引き出していく姿を黙って見ている事しか出来なかった。そして、そんなふうに乱れ狂う彼女を、その場の全員が見ている。
「あはぁっ!」
ユリネがひと際大きな悦びの声を漏らした。