第四章 指が-2
「魔物よ、解き放て、お前の欲情を。」
ヤギの言葉を聞き終わるや否や、彼女の指の動きが大きく早くなった。
右手の人差し指と中指で谷間を広げ、露出した部分を左手の中指でジュブゥ、ジュブルゥ、と湿った音をたてながら乱暴に擦り回した。
「あ、あ、ああっ、あはぁあ!あうぅ…。」
ビク、ビクン、と腰が跳ね回り、仮面が外れて飛びそうなぐらいに髪を振り乱している。
穏やかに微笑むユリネ。恥ずかしそうに上目遣いで僕をみつめるユリネ。首を傾げ、イタズラっぽく睨んでくるユリネ。
今、目の前で快楽に乱れ狂っている魔物が、本当に同じユリネだというのか。
「どう?理解できたかしら。」
「…あなたの言うように、彼女が元々秘めていた欲情が仮面の効果で表出した、としか考えられません。そうでなければ、そうでなければ…。こんな、こんな姿を…。」
「あら、素直になったじゃない。」
「でも。だとしても。見られながらなんて、酷過ぎ…」
「それはどうかな、カボチャ。」
「なんだと。」
「よく見ろ。」
オオカミは視線で示した。
ユリネは指を動かし続けながら、自分の行為を見られていることを確認するかのように周囲を囲む者たちを見回している。その仮面の下から漏れ聞こえる悦びの声は全く抑えられておらず、むしろ聞かせようとしているとしか思えないぐらい大きく激しい。どれだけ自分が感じているのかを知られたいと欲しているかのように。
「分かったか。魔物は見られながらすることに興奮を感じているんだ。あれを見て俺の言うことを否定できるか。」
…出来ない。ユリネは自分で自分に快感を与えて乱れている姿を見せつけ、それを見られることがさらに彼女の情欲を煽り…快楽のループが拡大を続けている。
「はあぁっ、あはっ、くっ、うううぅう…。」
彼女は長く美しい髪を激しく振り乱し、腰を上下に振りながら身もだえしている。
「そろそろね。」
魔物をじっと見つめていたヤギが右の手のひらをかざし、静かに告げた。
「浄化。」
「あはぁあぁああーーーーっ!」
ビクビク、ビクッ。
魔物は息を止め、微かに震えながら反り返り、ドサリと祭壇に崩れ落ちた。