第三章 魔を祓う聖なる火-1
村長が仮装したヤギが手にした小枝。その先端に灯る火。それは魔物、つまり僕の妻ユリネの陰毛へと近づけられていった。
ジ。
ついにその一部が焦がされ、タンパク質が燃やされた時に特有の匂いが漂い、彼女の陰毛の先端が少し短くなった。
彼女が身を固くしたのが分かる。仮面をしていても、僕には分かる。
「ユリネ…」
思わず声を漏らした僕に、狼の仮装をした男が抑えた声で言った。
「あれは魔物だ。儀式の途中で名を呼ぶな。」
収穫祭は、村長、その妻、その後継者、巫女、そして狩猟と農耕を象徴する2名と、魔物役1名の、合計7名のみで行われる。他の村人は見物はおろか、祭場に近づくことすら許されない。
魔物役は巫女が天啓を以て告知する。それは例外なく若く美しい女だ。
狩猟と農耕の代表は村議会議員の中から村長によって指名される。
それは、かつて村の重役たちの中から選抜されていた名残だろう。
具体的なメンバーの役割は以下の通りだ。
村長はヤギの仮装をし、儀式を取り仕切る。ヤギは知性と経験を表す。
その後継者、村長の長男はスイギュウの仮装をしている。力強さの象徴だ。
村長の妻はピーマン。農作物の豊穣を象徴する。
狩猟の勇者はオオカミ。勇気と勝利をもたらす者。
農耕の賢者はカボチャ。太陽と水と大地の力を受け止め、恵みをもたらす者。今年は僕が選ばれた。
巫女はトマト。随分前から義妹のゆいなが連続で務めている。
そして。
主役ともいえる魔物として巫女に指名されたのは、こともあろうに巫女のゆいなの姉、そして僕の妻、ユリネだ。
ジジ、ジ。
ユリネの陰毛が、次々と煙と匂いになって消えていく。
「足を開け。」
ヤギが命じた。
魔物は躊躇うように止まったり戻ったりしながら、ゆっくりと両足を開いていった。
「もっとだ。さあ、限界まで開け。」
僕しか見た事のない妻のその部分が、かがり火の灯りを受けて晒け出されていく。それを周囲を囲む仮装をした村人たちが見つめている。
ユリネの足が震えている。それは大きく開くための筋肉の軋みのせいばかりではない。見られたくない、足を閉じたいという恥じらいと、魔物役としてヤギの命令には逆らえない自分の立場との闘いなのだ。
ジジジ、ジ、ジジ。
ヤギは小枝の火を巧みに操り、指一本触れることなく魔物の陰毛を焼き払っていく。その行為には何の迷いも感じさせない。
火傷はしないと説明されたが、熱くないはずがない。ユリネは全身を強張らせ、必死に耐えている。
ジジ。
まるでカミソリで剃ったかのように見事に全ての陰毛が焼かれ、毛に隠されていた部分が剥き出しにされた。
「見よ。」
ヤギが指さした先には、ユリネの敏感な突起があった。それは…なんということだろう、大きく膨らみ、顔を出している。
「熱の刺激でそうなっただけさ…。」
僕は呟いた。
「そうかしら。」
ピーマンの仮装をした村長の妻がそう言った。
「どういうことですか?」
「あなた、意外に女を知らないのね。全く望んではいない刺激でこうはならないわ。」
「自ら刺激を望んだ、と?」
「まあ、見てなさい。」
ヤギが火のついた小枝を投げ捨てた。それは残像を残して闇に消えた。