♥隣にいてくれる男♥-5
「里穂っ!! それは嘘なんだ!!」
慌ててパパが立ち上がる。
「本当にこれはただの遊びだったんだ!! 冷めきってるとか離婚するつもりってのは、そう言えば彼女が喜ぶと思って、つい言葉のあやで……」
パパの言葉に、今度は不倫相手の女がギョッとした顔をしてパパに向き直った。
「部長! 遊びって、どういう事ですか!! 私は、部長が奥様と離婚するつもりだっていうから、この関係を始めたんだし、辛くてもずっと待ってたのに!!」
パパの腕を、爪が白くなるくらい掴んで詰め寄る女の瞳は、怒りと悲しみに満ちていた。
「うるさいっ、オレはお前より家族の方が大事なんだよっ!!」
唾を飛ばす勢いで、不倫相手に怒鳴って乱暴にその手を振り払うパパ。
刹那、女の絶望した表情が目に入った。
不倫なんて絶対に許されない事だと思うし、この女も許すつもりなんて毛頭ないけれど。
でも、きっとこの女はパパのことを本気で好きだったんだ。
パパが離婚するのをずっと待ち続けて、パパを信じて。
なのに関係があたしにバレたと知った瞬間、パパから手のひら返しをされて。
結局パパは、自分さえよければそれでいい、そんな人間だったのだ。
「もう、あたしとママの前から消えて」
腹の底から絞り出す声は、低く震えていた。
こいつはもう、あたしのパパじゃない。
自慢のパパは、もう死んでしまっていないのだ。
不倫相手と口論をしていたパパだった人は、あたしの小さな呟きに敏感に反応すると、慌ててあたしの肩を掴もうとした。
不意にとてつもない嫌悪感があたしを襲う。
こんな人に触られたくない!!
そう思った瞬間、別の大きな手があたしの腕を掴んだかと思うと、グッと自分の身体の背後にあたしを引き寄せた。