♥隣にいてくれる男♥-4
目を見開いたままのパパの顔。そのおでこには汗がたくさん浮かんでいた。
「……出張、お疲れ様」
「里穂っ、違う!! これは!!」
ドラマなんかでありがちなシーン。
どう見ても弁解の余地なんてないのに、「違う」だなんて、本当に言うんだ。
あれほど自慢だったパパが、あたしの目には色褪せて見えてくる。
フウ、と大きなため息を吐いて、今度は女の方にニッコリ笑って頭を下げた。
「初めまして、松本の娘の里穂です。“公私共々”父がお世話になっております」
あれだけフロントの人には威圧的な態度を取っていた女は、一気に顔面蒼白になって、目を泳がせ始めた。
これが、あたしの家族を壊した元凶。
いや、パパも同罪だ。どっちから言い寄ったかなんてあたしには関係ない。
この二人は、あたしとママを嘲笑いながら、外では恋人気取りで一緒にいたのだから。
「パパ……」
「里穂、本当に違うんだ。話を聞い……」
「あたし、ずっと前からパパが不倫してた事、知ってたから」
パパの弱々しい声を遮るように、あたしは大きな声で言った。
またしても一気に静まり返る一帯。
見れば、パパと不倫相手はポカンと口を開けて、あたしを見上げていた。
その様子が二人して、そっくりで。
似た者同士なんだと思うと、悲しみを通り越して笑えてきた。
「いいよ、もうコソコソしなくても。堂々と、恋人として付き合っていけばいい。ママとは冷めきってるんでしょう? あたしももう大きいから離婚するつもりだったんでしょう? だったら全部、パパの思い通りにすればいいじゃない!!」
イヤミたっぷりに言ってやるつもりだった。
なのに、勝手に声が震えてくる。
勝手に涙が溢れてくる。
……笑えてきたつもりだったのに。
やっと引っ込んだと思った涙がポロリとまた溢れてあたしは、ギュッと目を閉じた。
もう、もう、何もかもどうでもいい!!