♥隣にいてくれる男♥-3
刹那、時が止まったように辺りが鎮まった。
いや、パパ達には凍り付いたって言い方の方が正しいだろう。
その時のパパの顔を、あたしは一生忘れることはないと思う。
それほどマヌケで、カッコ悪かったから。
ツカツカとあたしは床を鳴らしながら、まっすぐ天野くんの隣に向かった。
「天野くんは悪くない!!」
そう叫んで、まずはフロントに睨みをきかせる。
でも、そこまでしなくともあたしの登場は充分抑止力になっていたらしい。
フロントもポーターも、まるで“だるまさんがころんだ”をしたみたいに、固まって動けないようだったから。
……それに、パパと不倫相手の女も。
「松本……」
そんな中、天野くんだけがあたしに心配そうな顔を向けた。
「大丈夫か?」とでも言いたげな表情は、さっきのパパ達に対峙した時のゾッとするような冷たいものとはまるで違っていた。
これが、いつもの天野くんだ。
あたし、天野くんのいろんな顔を見てきた。
あたしにからかわれて真っ赤になってる顔、あたしが大っ嫌いって言っちゃった時のショックを受けたような顔、告白してくれた時の真剣な顔。
だけど、彼はあたしには、パパに向けたようなあの冷たい顔は一度も見せたことがなかった。
それは、天野くんがいつもあたしに優しかったから。
勘違いだったけど、あたしを助けるために天童さんのお店にたった一人で乗り込んできたり。
そして今も、あたしのためにパパと不倫相手の密会現場を取り押さえ、あたしの為にパパを殴ってくれたり。
天野くんはいつだってあたしを助けようとしてくれた。
その天野くんが、隣にいてくれてる。
さっきまで絶望で震えていた身体に力が漲るような気がして、自然と拳を握る手に力がこもる。
あたしは天野くんに、ゆっくり目を細めて軽く頷いてみせた。
ーーあたしは大丈夫。天野くんがそばにいてくれるから。
そして、あたしはパパ達の方をゆっくり見やった。