♥隣にいてくれる男♥-2
「ちょ、ちょっと! 警察を呼んでよ!! コイツ頭おかしいわよ、人をいきなり殴るなんて!!」
女もヒステリックに喚きながら、フロントに向かって怒鳴りつけていた。
フロントの人達は、驚きのあまり今の状況が呑み込めていないのか、すぐに身体が反応できないようだ。
一方パパも、殴られた頬を押さえながら、女の意見に同調するように何度も頷いていた。
その姿を見た瞬間、あたしの身体からスウッと何かが引いていった。
不倫を知るまでは、あたしはパパの事が大好きだった。
仕事が出来て、家族も大切にしてくれて、見た目だってカッコいい、自慢のパパ。
運動神経だって抜群だったから、あたしの運動会での親の競技でもいつもぶっちぎりの一位だったっけ。
「里穂のパパ、かっこいい」とか「あたしも里穂のパパみたいなお父さんが欲しかった」なんてよく友達に羨ましがられるたびに内心鼻が高かった。
あの頃のパパは、もうどこにもいないんだ。
あたしは知らず知らずの内に震える手をギュッと握り締めていた。
「何をモタモタしてるんだ! 早く警察を呼べ!!」
苛立ちをあらわにしながら大声をあげるパパ。
顔つきがなんだか禍々しくて、まるで何か悪い物に取り憑かれているように見えた。
でも、これが今のパパの姿なんだ。
不倫相手に溺れて、家族を捨てようとしていたパパの姿なんだ。
二人に怒鳴りつけられたフロントの男性は、急かされて受話器を持ち上げる。
ポーターの人達が、この騒ぎを聞きつけてこちらに駆け寄って来るのが見える。
このままだと、天野くんが悪者にされちゃうーー。
気付くとあたしは
「待って!!」
と、声を振り絞って柱の陰から姿を現した。