ハロウィンの夜-1
夜の商店街。僕とりす子は二人で足を進めていった。
青白い光の筒の中を抜けると、木箱を積んだバリケードの上に、カボチャに目鼻をくりぬいた頭が転がっていた。カボチャ頭は僕たちに怒鳴った。
「右だ。右の扉に入れ!」
そう言ったカボチャ頭の眼から、ダラダラと血が流れ始めた。僕はりす子を連れて、その右の扉に入った。
扉の奥はガランとした部屋だった。いくつものガイコツが床に転がり、コウモリが天井で羽ばたき、壁にサソリがうごめいている。
そして、部屋の奥には小さな机を前に、白い仮面をかぶったゾンビが立っていた。
「何者だ、名を名乗れ!」
ゾンビが大きな声で言う。僕は、
「214番と、215番です……」
と答えた。
「二人、よくここまで来たな。」ゾンビはそう言うと、机の上に一つの立方体を出した。
「ここに書かれている文字を使って、一つの文を作れ。」
僕はその立方体を手にとって、ひねくり回すと、
「血塗られし夜」と答えた。ゾンビは、
「その通りだ。…さあ、次は後ろの娘の番だ。」
と言ったが、それどころじゃない。
りす子は僕の背中にしがみついて、僕の肩あたりにピッタリ押しあてた顔を、あげようとしないんだ。
もう、この「商店街ホラーナイト」のエリアに入った時から りす子はこのザマなんだ。
ーーー
数年前、シャッターばかり目立つようになった近所の商店街が、色々イベントをするようになった。
そのひとつがハロウィンの日の「ホラーナイト」だ。
はじめは粗末なお化け屋敷だったけど、どこかの専門学校が協力し始めてから、立体映像なんかを駆使してとんでもなく怖くなった。
もっとも、粗末なお化け屋敷の時代からりす子は こんな感じだった。
りす子は過ぎるほどの怖がりだ。
りす子の両親が医療関係の職場に勤めているから、しばしばりす子は一人で夜を過ごすことになる。
時々そんな夜遅く、こんな電話が僕のところにかかってくる。
「みち男く〜ん、風の音がゴウゴウ鳴って怖いの。」
「みち男く〜ん、おトイレの灯りがチカチカしてて怖いの。」
「みち男く〜ん、何か大きな虫が入ってきて怖いの!」
そんな話を聞くとウチの親は、
「行ってあげなさい。」と僕を追い立てる。
虫なんか僕だって苦手だけど、夜ふけに怖がっているりす子の姿を見ると、イヤでも虫を手づかみして りす子を安心させなくては、って気になるんだ。
ーーー
「……ごめんなさい。こいつ、ビビってこんな状態だから、僕が代わりに答えます。」
「……まあ、いいだろう。」ゾンビはそう言って、僕に立方体を手渡した。
「……迷いし愚か者」
ゾンビはうなずいた。
「よろしい。さあ、この『まが玉』を持っていくがよい。そして出口で景品と引き換えるのだ……」